不顕性誤嚥(むせない誤嚥)とは?原因と気づきにくいサイン・予防のこと
「むせていないから、飲み込みは大丈夫」——ご家族の様子を見ていて、そう受け取ってしまうことは少なくありません。ところが実際には、むせや咳をともなわないまま起こる誤嚥があります。これを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)といいます。
むせは、気管に入りかけたものを押し返そうとする、からだの防御反応です。裏を返せば、その反応が弱くなっている方では、誤嚥が起きていても表に現れません。この記事では、不顕性誤嚥とはどのようなものか、なぜむせずに起こるのか、そしてご家族が気づける小さなサインと、ご家庭や施設でできることを整理します。
不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)とは——「むせない誤嚥」のこと
誤嚥とは、飲み込むときに食べ物や飲み物、唾液などが、食道ではなく気管のほうへ入ってしまうことをいいます。このうち、むせや咳といったわかりやすい反応をともなわないものが不顕性誤嚥です。
誤嚥は、必ずしもむせをともないません
「誤嚥=ひどくむせるもの」という印象をお持ちの方は少なくありません。けれども、のどの感覚や咳の反射が低下している方では、気管に入り込んでも咳が出ないことがあります。ご本人に自覚がなく、そばで見ているご家族も気づけないため、「むせていないから誤嚥していない」とは言い切れないのです。
のどの知覚(のどに食べ物が触れている感覚)が低下していると、ご本人にも自覚が生まれません。そのため、そばで見ているご家族も「むせていなかったから誤嚥していない」と受け取ってしまうことがある、と指摘されています。
「顕性誤嚥」との違い
- 顕性誤嚥…食事中や飲水時にむせる、咳き込むなど、その場ではっきりした反応が現れる誤嚥です。
- 不顕性誤嚥…むせや咳が現れないまま起こる誤嚥です。食事中に限らず、眠っている間に唾液を少しずつ吸い込んでいることもあります。
むせるのは苦しそうに見えますが、むせることができる状態は、防御のしくみが働いているとも考えられます。むしろ注意したいのは、「以前はよくむせていたのに、最近はむせなくなった」という変化のほうです。飲み込みが良くなったのではなく、反射が出にくくなっている可能性もあるためです。
なぜ、むせずに誤嚥が起こるのか
咳反射と嚥下反射の低下
本来、異物が気道に入りそうになると、意識しなくても咳が出て気道を守ります。ところが加齢にともない、神経伝達物質が減ることなどによって、飲み込みの反射(嚥下反射)と、咳の反射(咳反射)がどちらも低下していくことが指摘されています。
嚥下反射が遅れると、飲み込む前に食べ物や飲み物がのどの奥へ流れ込みやすくなります。そこへ咳反射の低下が重なると、気管に入っても押し返す動きが起こらず、静かに誤嚥が進んでしまいます。
のどの感覚が鈍くなる
のどに食べ物が触れている感覚そのものが鈍くなることもあります。感覚が鈍ると、のどに食べ物が残っていても気づけません。飲み込んだあとに残ったものが、次に息を吸ったタイミングで気管に吸い込まれることもあるとされています。
背景になりやすい病気・状態
次のような病気や状態があると、誤嚥性肺炎につながりやすいと考えられています。
- 脳出血・脳梗塞などの脳血管障害
- パーキンソン病やその他の神経の病気
- アルツハイマー型などの認知症
- 胃食道逆流症(胃の内容物が食道へ戻りやすい状態)
- 口の中の乾燥、歯の欠損や合わない入れ歯による噛み合わせの問題
- 寝たきりに近い状態、経管栄養を使用している状態
- 睡眠薬の使用など、お薬の影響
お薬については、必要があって処方されているものです。気になる場合も自己判断で中止・変更せず、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。当院が薬の内容を単独で変更することはありません。
食事のときだけではありません——就寝中に起こる誤嚥
唾液の誤嚥
唾液は、食事をしていない時間にも絶えず分泌され、私たちは意識せずに飲み込んでいます。そのため、眠っている間に唾液を少量ずつ吸い込んでしまうことがあります。食事の場面では問題なく見えるのに肺炎を繰り返す、という背景に、こうした誤嚥が関わっていることがあります。
口の中は、どれだけ丁寧にお手入れをしても無菌にはなりません。だからこそ、吸い込む唾液に含まれる細菌の量を、日々のケアで減らしておくという考え方が大切になります。
胃からの逆流
誤嚥するものは、口やのどに溜まったものだけではありません。胃の内容物が食道へ逆流し、それを吸い込むこともあります。この場合は、一緒に吸い込む胃酸による刺激も問題になると考えられています。食後すぐに横になる習慣がある方では、特に気をつけたい経路です。
ご家族が気づける小さなサイン
不顕性誤嚥は「気づきにくい」ものですが、まったく手がかりがないわけではありません。次のような変化は、飲み込みやお口の状態を見直すきっかけになります。
食事のときに見えるサイン
- 食事に以前より時間がかかる、途中で疲れて食べるのをやめてしまう
- 飲み込んだあとに声がガラガラ・ゴロゴロと変わる
- 食後に痰がからむ、のどを鳴らすような音がする
- 食事の量が減ってきた、食事を嫌がるようになった
- 以前はむせていたのに、むせなくなった
食事以外の時間に見えるサイン
- 夜間や明け方に咳き込む、朝方に痰が多い
- 原因のはっきりしない微熱をくり返す
- 体重が少しずつ減ってきた
- なんとなく元気がない、日中うとうとしていることが増えた
高齢の方の肺炎は、症状がそろわないことがあります
肺炎を疑う所見は発熱・咳・痰とされますが、高齢の方ではこれらがそろわないことがよくあります。咳反射が低下していれば咳は出ず、咳が出なければ痰も出てきません。体力が落ちているときには、重い肺炎であっても熱が出ないことがあるとも説明されています。
「肺炎らしくない」からといって、否定はできないということです。いつもと様子が違う、食事の場面で気になることが続く——そうしたときは、早めに医科・歯科へご相談ください。呼吸が苦しそう、ぐったりしている、意識がはっきりしないといったときは、ためらわず救急要請(119番)を含めた速やかな受診をお願いします。
ご家庭・施設でできること
毎日の口腔ケア
お口の中の細菌の量を減らしておくことは、誤嚥したときに肺炎を起こしにくくすることにつながると考えられています。また、歯ブラシがお口の中を刺激すること自体が、飲み込みや咳の反射によい影響を与えるとも説明されています。
歯だけでなく、舌・頬の内側・上あご、入れ歯の内側まで含めてお手入れすることが大切です。うがいが難しい方の場合は、水を使いすぎるとかえって誤嚥のもとになりますので、拭き取りを中心にした方法を、担当の医療・介護職と相談しながら選んでください。なお、口腔ケアの効果の現れ方には個人差があり、結果を保証するものではありません。
ご家庭でのケアの具体的な進め方は、高齢者の口腔ケアはなぜ大切?の記事でもご説明しています。
食事中と食後の姿勢
- 食事のときは、できるだけいすに深く座り、足の裏を床につけて、少しあごを引いた姿勢をとります。
- ベッド上で召し上がる場合は、上体を起こした角度を医療・介護職と相談して決めます。
- 食後すぐに横にならないようにします。逆流を防ぐため、食後しばらくは座った姿勢を保つことがすすめられています。横になる必要がある場合も、可能であれば頭側を少し上げた状態にします。
- 就寝前の口腔ケアは、眠っている間に吸い込む唾液の細菌を減らすという意味でも大切です。
自己判断で食事や水分を減らさない
「むせるのが心配だから」と、ご家族の判断で食事の量や水分を減らしてしまうと、低栄養や脱水につながり、かえって体力と飲み込む力を落としてしまうことがあります。食事内容やとろみの濃さは、自己判断で変えず、担当の医師・歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士にご相談ください。持病によって適切な水分量が異なる場合もあります。
気になるときは、歯科にもご相談ください
飲み込みの状態は、見た目やご家庭での様子だけで判断することが難しいものです。とくに不顕性誤嚥は、わかりやすい合図が出ないことがその特徴です。気になる状態が続くときは、飲み込みの働きを実際に確認することが、次の一歩になります。
歯科がお手伝いできること
当院は、摂食嚥下障害の診療を主軸とする歯科医院です。飲み込みの状態を確認したうえで、お口のケア、食事の形態や姿勢の工夫、ご家族・介護職への助言まで、生活の場に沿ったかたちでお手伝いしています。必要に応じて、内視鏡を用いた嚥下機能の評価など、詳しい検査による確認も行います(検査の内容は、状態に応じてご説明します)。
あわせてご覧いただきたいページ
- 飲み込みの働きや、歯科が関わる理由については 摂食嚥下障害とは
- 症状が軽いうちに確認しておきたい方は 嚥下健診(デンタルドック)
- 通院が難しい方へのご自宅・施設での診療は 保険診療での摂食嚥下の訪問診療
ご自宅や施設へ伺う訪問診療のほか、通院できる方には外来(完全予約制)でも対応しています。「むせていないから大丈夫」と見送られてしまいがちな変化こそ、早めに確かめておく意味があります。東京都世田谷区奥沢・自由が丘エリアで、ご本人・ご家族・施設のご担当者さまからのご相談をお受けしていますので、気になることがありましたら、まずはご相談ください。


