COPD(慢性閉塞性肺疾患)に伴う誤嚥性肺炎 ― 「呼吸」と「飲み込み」のバランスを見直したケース
これまで脳卒中後遺症、パーキンソン病、認知症、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者、サルコペニア・低栄養、口腔機能低下症、介護施設、在宅療養と、さまざまな背景による誤嚥性肺炎をご紹介してきました。今回は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を背景に誤嚥性肺炎を発症した症例をご紹介します。
COPDは、長年の喫煙などを主な原因として呼吸機能が低下する病気です。近年では「呼吸」と「飲み込み」が密接に関係していることが明らかになっており、COPDのある方では誤嚥性肺炎のリスクが高いことが報告されています。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。
症例:J様(78歳・男性・仮名)
40年以上の喫煙歴があり、10年前にCOPDと診断されました。在宅酸素療法は必要ありませんでしたが、階段の昇降や少し速く歩くだけでも息切れがあり、呼吸器内科へ定期通院していました。ここ半年ほど、次のような症状がみられるようになりました。
- 食事中に息継ぎが増えた
- 食後に湿った咳が続く
- 水分で時々むせる
- 食事に以前より時間がかかる
その後、発熱と呼吸苦が出現し、病院で誤嚥性肺炎と診断され入院となりました。肺炎は改善しましたが、「また肺炎になるのではないか」という不安から、退院後に当院を受診されました。
当院での評価
嚥下機能だけでなく、呼吸機能との関係にも注目して評価を行いました。
嚥下内視鏡検査(VE)
VEでは、軽度の咽頭残留、水分での喉頭侵入、咳反射の低下を認めました。さらに、飲み込んだ直後に呼吸を再開するタイミングが早く、誤嚥につながる可能性が考えられました。
嚥下エコー
舌骨や喉頭の動きは比較的保たれていましたが、嚥下後の食塊残留がわずかに認められました。また、呼吸が苦しくなると嚥下運動が不安定になる様子も観察されました。被ばくがなく繰り返し評価できるため、呼吸状態の変化に応じた経過観察にも有用でした。
呼吸機能の評価
呼吸器内科と連携し呼吸状態を確認したところ、次の所見が認められました。
- 呼吸回数の増加
- 咳をする力の低下
- 痰を十分に排出できない状態
COPDでは、呼吸を優先するために「飲み込むタイミング」が乱れやすくなることがあり、これが誤嚥の一因になると考えられています。
対処・介入
評価結果をもとに、多職種で介入を行いました。
- 呼吸と嚥下のリハビリテーション:言語聴覚士と理学療法士が連携し、呼吸リズムを整える訓練、飲み込む前後の呼吸方法の指導、咳嗽力(咳をする力)を維持する訓練を開始しました。「呼吸」と「嚥下」のタイミングを意識することが大切であることをご本人にもご説明しました。
- 食事方法の見直し:息切れが強いときは無理をせず、一口量を少なくする、ゆっくり食べる、必要に応じて休憩を入れるよう指導しました。
- 口腔ケア:歯科衛生士による専門的口腔ケアを開始しました。口腔内細菌を減らすことは誤嚥性肺炎予防の基本であり、COPDのある方でも重要です。
- 栄養管理:COPDでは呼吸に多くのエネルギーを消費するため、管理栄養士が十分なエネルギーとたんぱく質を摂取できる食事内容を提案しました。
経過
約6か月後の再評価では、食事中の息苦しさとむせる回数の減少が確認されました。嚥下エコーでも嚥下後の残留の改善がみられ、呼吸を整えながら食事を摂取できる状態となりました。その後1年以上、誤嚥性肺炎の再発なく外来通院を継続されています。
※ 改善の程度には個人差があり、状態や基礎疾患によって経過は異なります。またCOPDは進行性の疾患であり、呼吸機能の変化に応じて定期的な評価とリハビリテーションを継続することが重要です。
ご家庭でできる予防のポイント
- 息が苦しいときは無理に食事をしない
- 一口量を少なくし、ゆっくり食べる
- 食事中は呼吸を整えながら飲み込む
- 痰が増えた、むせが増えたなどの変化を見逃さない
- 毎日の口腔ケアを継続する
- 呼吸器内科と歯科・嚥下の専門職が連携した診療を受ける
おわりに
COPDのある方では、「呼吸」と「飲み込み」のバランスが崩れることで、誤嚥性肺炎を発症しやすくなると考えられています。そのため、嚥下機能だけを評価するのではなく、呼吸機能や咳をする力、栄養状態、口腔環境などを総合的に評価することが重要です。
私たちは、「食べること」と「呼吸すること」の両方を支える視点を大切にしています。誤嚥性肺炎の予防は、歯科だけでも、呼吸器内科だけでも完結しません。それぞれの専門職が連携することで、安心して食事を続けられる環境をつくることができます。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。
当院のワンポイント
誤嚥性肺炎は、「飲み込み」だけの問題ではありません。呼吸、口腔、栄養、筋力、全身状態など、多くの要因が複雑に関係しています。
当院では、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下エコーを用いた評価に加え、呼吸器内科やリハビリテーションスタッフとも連携し、一人ひとりの状態に合わせた予防プログラムをご提案しています。「呼吸を守ることは、食べる喜びを守ること。」患者さんが安全に、そして楽しみながら食事を続けられるよう、多職種とともに誤嚥性肺炎の予防に取り組んでいます。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。