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実例

介護施設で発症した誤嚥性肺炎 ― 多職種連携で「再発を防ぐ仕組み」をつくったケース

これまで脳卒中後遺症パーキンソン病認知症誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者サルコペニア・低栄養口腔機能低下症など、さまざまな背景による誤嚥性肺炎をご紹介してきました。今回は、介護施設で生活されている高齢者の誤嚥性肺炎についてご紹介します。

介護施設では、医療機関とは異なり、毎日の食事や口腔ケア、生活支援を介護職員が担っています。そのため誤嚥性肺炎の予防には、医師や歯科医師だけではなく、介護職員、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士など、多職種が連携した取り組みが欠かせません。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。

症例:G様(91歳・女性・仮名)

介護老人保健施設に入所されて3年。軽度の認知症があり車椅子で生活されていましたが、食事はご自身で摂取できていました。しかし、ここ数か月で次のような変化がみられるようになりました。

  • 食事中によくむせる
  • 食事に40〜50分かかる
  • 食後に湿った咳が続く
  • 微熱を繰り返す

ある日、38℃を超える発熱と呼吸苦が出現し、病院へ搬送された結果、誤嚥性肺炎と診断され入院となりました。肺炎は改善し施設へ戻られましたが、「もう繰り返したくない」というご家族の希望もあり、当院へご相談がありました。

当院での評価

施設職員から詳しく生活状況を伺い、実際の食事の様子も確認しました。

食事場面の観察

施設では、誤嚥のリスクを高める次の要因が認められました。

  • 車椅子の背もたれが後方へ傾いている
  • 頸部が伸展した状態で食事をしている
  • 一口量が多い
  • 食べ終わる前に次の一口を介助している

嚥下内視鏡検査(VE)

VEでは、咽頭残留、水分での軽度誤嚥、咳反射の低下を認めました。特に食後にも咽頭内へ食物が残り、それが後から気道へ流れ込む「食後誤嚥」が疑われました。

嚥下エコー

嚥下運動自体は保たれていましたが、舌骨挙上の速度がやや低下しており、嚥下後の残留も確認されました。外来でも繰り返し評価できるため、今後の経過観察にも活用することとしました。

口腔内の評価

口腔内には舌苔が多く付着し、義歯清掃も十分ではありませんでした。また、食後すぐに臥床することもあり、口腔内細菌が気道へ流入しやすい環境となっていました。

対処・介入

施設スタッフとカンファレンスを行い、多職種で予防プログラムを作成しました。

  • 食事姿勢の改善:車椅子の座位姿勢を調整し、骨盤を安定させる、頸部を軽く前屈する、足底をしっかり床へ接地するよう改善しました。姿勢が安定すると嚥下しやすくなり、誤嚥のリスクの低下にもつながると考えられています。
  • 食事介助方法の見直し:介護職員全員で介助方法を統一し、一口量を少なくする、飲み込みを確認してから次の一口を介助する、食事を急がせない、という基本を徹底しました。
  • 口腔ケア:歯科衛生士による専門的口腔ケアを毎週実施し、介護職員にも口腔ケア方法を指導しました。義歯管理や舌清掃についても施設全体で取り組みました。
  • 嚥下リハビリテーション:言語聴覚士による嚥下訓練を開始し、食前の嚥下体操や発声練習も施設の日課として取り入れました。
  • 栄養管理:管理栄養士が食形態を見直し、十分な栄養を確保しながら、安全に食べられるメニューへ変更しました。

経過

施設全体で取り組みを開始して約6か月後、食事時間は約30分まで短縮し、むせ込みの減少が確認されました。食事を楽しめる様子も見られるようになり、その後1年以上、誤嚥性肺炎の再発なく施設生活を継続されています。また、この取り組みをきっかけに施設全体で食事介助方法や口腔ケアの見直しが進み、他の入所者の誤嚥リスクについても定期的な評価を行う体制が整いました。

※ 施設の環境や入所者の状態によって改善の程度には個人差があります。重要なのは、一人だけの取り組みではなく、多職種が共通の目標を持って継続することです。

ご家庭・施設でできる予防のポイント

  • 食事姿勢を毎回確認する
  • 一口量を少なくし、ゆっくり食べる
  • 食後30分程度は座位を保つ
  • 毎日の口腔ケアを丁寧に行う
  • 「最近むせが増えた」「食事時間が長くなった」など、小さな変化を見逃さない
  • 定期的に嚥下機能を評価する

おわりに

介護施設で発症する誤嚥性肺炎は、一人の専門職だけで予防できるものではありません。医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士、理学療法士、介護職員、そしてご家族が同じ目標を共有し、それぞれの専門性を生かすことが重要です。

私たちは、「肺炎になってから治療する」のではなく、「肺炎を繰り返さない生活環境をつくる」ことを大切にしています。食事の姿勢や介助方法、口腔ケア、栄養管理など、日常の小さな積み重ねが誤嚥性肺炎の予防につながると考えられています。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。

当院のワンポイント

誤嚥性肺炎の予防は、「チーム医療」ではなく「チームケア」の時代です。特に介護施設では、毎日利用者と接する介護職員の「気づき」が早期発見の入り口になります。

当院では、利用者様の評価だけでなく、施設職員への研修や食事介助のアドバイス、多職種カンファレンスへの参加などを通して、施設全体で誤嚥性肺炎を予防できる仕組みづくりを支援しています。一人の利用者様を守ることは、施設全体のケアの質を高めることにつながります。施設・ケアマネジャーさま向けのご案内はケアマネジャー・介護施設さまへをご覧ください。訪問診療(自由診療)、通院が可能な方は外来(完全予約制)でも対応しています。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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