摂食嚥下障害の訪問診療|「口から食べる」を歯科から支えます 東京・自由が丘/世田谷|ご予約 03-6459-7970
実例

在宅療養中に発症した誤嚥性肺炎 ― ご家族とともに「安全に食べ続ける」ことを目指したケース

これまで脳卒中後遺症パーキンソン病認知症誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者サルコペニア・低栄養口腔機能低下症、そして介護施設での誤嚥性肺炎についてご紹介してきました。今回は、ご自宅で療養されている高齢者の誤嚥性肺炎についてご紹介します。

近年、「できるだけ住み慣れた自宅で生活を続けたい」と希望される方が増えています。一方で、ご家族だけで食事や口腔ケア、体調管理を行うことへの不安も少なくありません。在宅では、病院や施設とは異なり、ご本人の生活環境に合わせた支援が重要になります。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。

症例:H様(87歳・女性・仮名)

3年前に脳梗塞を発症し、右片麻痺が残存していました。退院後はご主人と二人暮らしとなり、訪問看護と訪問リハビリを利用しながら在宅生活を続けていました。食事はご主人が毎日準備していましたが、最近になって次のような変化がみられるようになりました。

  • 食事中によくむせる
  • 食後に痰が増える
  • 声が濡れたような話し方になる
  • 食事時間が長くなった

その後、発熱と呼吸苦が出現し、誤嚥性肺炎で入院となりました。肺炎は改善しましたが、「もう一度自宅で生活したい」というご本人の希望が強く、退院後に当院へご相談されました。

当院での評価

嚥下機能だけではなく、ご自宅での生活環境や介護状況も含めて評価しました。

嚥下内視鏡検査(VE)

VEでは、咽頭残留、水分での軽度誤嚥、咳反射の低下を認めました。特に疲労時には嚥下機能が低下しやすいことが分かりました。

嚥下エコー

舌骨の動きは保たれていましたが、嚥下後に少量の食塊残留を認めました。被ばくがなく短時間で評価できるため、外来だけでなく訪問診療の場面でも継続的な評価が可能です。

在宅環境の確認

ご自宅での様子を詳しく伺うと、日常生活の中に誤嚥のリスクとなる要因がいくつか見つかりました。

  • 食卓と椅子の高さが合っていない
  • テレビを見ながら食事をしている
  • 一度に多く口へ運んでしまう
  • 食後すぐ横になっている

また、ご主人は「むせるたびに食事を中止した方がいいのか分からない」という不安を抱えていました。

対処・介入

ご本人だけでなく、ご家族も含めた支援を開始しました。

  • 食事環境の改善:椅子やテーブルの高さを調整し、安定した姿勢で食事ができるようにしました。テレビを消し、食事に集中できる環境づくりも提案しました。
  • 食事方法の見直し:一口量を少なくする、よく飲み込んでから次の一口を摂る、疲れているときは無理をしないなど、ご本人の状態に合わせた食事方法を指導しました。
  • 口腔ケア:訪問歯科による専門的口腔ケアを定期的に実施し、ご主人にも毎日の口腔ケア方法をお伝えしました。義歯の清掃方法や舌清掃についても確認しました。
  • 嚥下リハビリテーション:言語聴覚士による訪問リハビリを開始しました。食前の嚥下体操や呼吸訓練も、自宅で継続できる内容としました。
  • 多職種連携:訪問看護師、ケアマネジャー、訪問歯科、言語聴覚士、主治医が情報を共有し、定期的に状態を確認しました。ご家族が一人で悩まないよう、相談できる体制を整えました。

経過

約5か月後には、食事中のむせ込みの減少と食後の痰の減少が確認されました。ご家族が以前より落ち着いて食事に付き添える様子も見られるようになりました。嚥下エコーでも咽頭残留の改善が確認され、その後1年以上、誤嚥性肺炎の再発なく在宅生活を継続されています。

※ 改善の程度には個人差があり、状態や生活環境によって経過は異なります。在宅療養では、病状だけでなく介護環境やご家族の負担も重要な要素となります。状態の変化に応じて支援内容を見直すことが大切です。

ご家庭でできる予防のポイント

  • 正しい姿勢で食事をする
  • 食事中はテレビなどを消し、食べることに集中する
  • 一口量を少なくし、ゆっくり食べる
  • 食後30分程度は座った姿勢を保つ
  • 毎日の口腔ケアを継続する
  • 「むせ」「痰」「食欲低下」「声の変化」があれば早めに相談する

おわりに

在宅療養では、ご本人だけでなく、ご家族の存在が誤嚥性肺炎予防の大きな支えとなります。一方で、ご家族だけが頑張り続けることには限界があります。私たちは、ご本人の嚥下機能だけでなく、ご家族の介護負担や生活環境も含めて評価し、「安全に食べ続けるための生活」を一緒に考えることを大切にしています。

誤嚥性肺炎を予防することは、単に肺炎を防ぐことではありません。「食べる楽しみ」と「住み慣れた自宅で暮らす喜び」を守ることでもあります。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。

当院のワンポイント

在宅医療では、「生活そのもの」が診療の場になります。病院では問題なく食事ができても、自宅では姿勢や介助方法、生活習慣の違いによって誤嚥のリスクが高まることがあります。

当院では、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下エコーによる評価に加え、ご自宅での生活環境や介護状況まで含めた総合的なサポートを行っています。「その人らしく食べ続けること」を支えることが、私たちの目指す誤嚥性肺炎予防です。ご自宅への訪問は訪問診療(自由診療)保険の摂食嚥下診療で対応し、通院が可能な方は外来(完全予約制)もご利用いただけます。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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