薬は飲めていたはずなのに ― 「錠剤の飲み込み」がきっかけになった誤嚥性肺炎
食事や水分の飲み込みには注意していても、意外に見落とされやすいものがあります。それが薬の服用です。高齢になると、一度に複数の錠剤を服用している方も少なくありません。食事は問題なく食べられていても、錠剤が口や咽頭に残ったり、薬を流し込もうとして多量の水を急いで飲んだりすることで、むせにつながる場合があります。
今回は、食事そのものではなく、毎日の服薬場面を見直したことで誤嚥性肺炎の予防につながったケースをご紹介します。なお、薬の副作用によって嚥下機能が低下したケースは別にご紹介しています。本記事は「薬をどのように飲んでいるか」という動作そのものに絞ってご説明します。
※ 本症例は、臨床でみられる経過をもとに構成した架空の複合症例です。
症例:X様(83歳・女性・仮名)
高血圧、骨粗鬆症、糖尿病などで内科や整形外科へ通院し、朝夕合わせて複数の薬を服用していました。食事は普通食で、食事中に目立ったむせはありませんでした。ところが、半年の間に2回肺炎を発症しました。ご家族は「食事を見ていても、ほとんどむせていないんです」と話されていました。
詳しく生活状況を確認していくと、娘さんから気になる話がありました。「そういえば、朝の薬を飲むときだけ、よく咳をしています」。X様は朝食後、複数の錠剤をまとめて口へ入れ、コップの水で一気に流し込む習慣がありました。ときには「薬が喉に残っている感じがする」と訴えることもありました。そこで、食事だけでなく服薬時の嚥下についても評価することにしました。
当院での評価
食事では大きな問題がみられない
嚥下機能を評価すると、食事では軽度の咽頭残留はあるものの、少量ずつ落ち着いて食べれば比較的安定していました。一方、服薬方法を確認すると、複数の錠剤を一度に口へ入れ、その直後に比較的大きな一口の水を飲んでいました。服薬後には咳払いがみられ、声がわずかに湿ることもありました。
「食べられる」と「薬を安全に飲める」は同じではない
錠剤は通常の食物とは形状や性質が異なります。小さく硬いもの、表面が口腔内で付着しやすいもの、大きなカプセルなど、薬によって特徴もさまざまです。さらに高齢者では唾液の分泌が低下していることもあり、薬が口腔内や咽頭に残りやすくなる場合があります。X様にも口腔乾燥が認められました。つまり、「普通の食事が食べられているから、薬も問題なく飲めている」とは限らないのです。
多剤服用にも注目
X様は複数の医療機関から薬を処方されていました。薬そのものが必要であることと、その薬を現在の嚥下機能でどのように安全に服用するかは別の問題です。そこで主治医や薬剤師にも情報を共有し、服薬方法について検討することにしました。
※ 薬には粉砕してはいけないものや剤形を変更できないものもあります。そのため、患者さんやご家族の判断で薬を砕いたり、カプセルを開けたりすることは避ける必要があります。
対処・介入
- 一度にすべての薬を飲まない:複数の錠剤を一気に服用する方法を見直しました。ご本人の状態を確認しながら、一度に口へ入れる薬の数を調整しました。服薬に時間がかかっても、「早く全部飲むこと」より「安全に飲むこと」を優先しました。
- 薬剤師と剤形を確認:主治医・薬剤師と連携し、それぞれの薬について服用方法を確認しました。必要に応じて、患者さんが服用しやすい剤形へ変更できるかを検討しました。薬の粉砕や剤形変更には専門的な判断が必要なため、必ず医師や薬剤師へご相談ください。
- 服薬時の姿勢を見直す:X様は朝食後、ソファにもたれた状態で薬を飲むことがありました。そこで、身体を安定させ、服薬に適した姿勢をとってから薬を飲むようにしました。服薬後にも、口腔内に薬が残っていないか確認しました。
- 口腔乾燥への対応:口腔乾燥が強かったため、口腔ケアと保湿についても見直しました。「薬を飲むこと」だけを単独で考えるのではなく、薬を安全に飲み込める口腔環境を整えることも重要と考えました。
- 「薬を飲んだ後」を観察:ご家族には、服薬後に咳やむせがないか、声がガラガラしていないか、薬が口に残っていないか、「喉につかえる」と訴えていないか、服薬後に痰が増えていないかを観察していただきました。
経過
服薬方法を見直して約3か月後、薬を飲んだ後の咳は以前より少なくなりました。ご本人からも、以前は朝のうちに全部飲もうと急いでいたという振り返りが聞かれました。その後も主治医・薬剤師と連携しながら服薬管理と口腔管理を継続し、肺炎の再発なく経過しています。
※ 改善の程度には個人差があり、状態や基礎疾患によって経過は異なります。過去の肺炎が服薬時の誤嚥だけによって起きたと断定することはできません。しかし、食事だけを観察していたのでは気づけなかった日常生活の中の嚥下リスクを見つけることができた症例でした。
ご家庭でできる予防のポイント
高齢のご家族が薬を服用している場合、一度実際の服薬場面を見てみてください。
- 複数の錠剤を一度に飲んでいないか
- 薬を飲むときだけむせていないか
- 服薬後に咳払いをしていないか
- 「薬が喉に残る」と訴えていないか
- 口腔内が乾燥していないか
- 薬を急いで飲んでいないか
- 服薬時の姿勢が崩れていないか
問題がある場合には、自己判断で薬を砕いたり中止したりせず、主治医や薬剤師へご相談ください。
おわりに
誤嚥性肺炎の予防では、どうしても「食事」に目が向きます。しかし、人が口から飲み込むものは食事だけではありません。水分。唾液。そして、毎日服用する薬。特に多くの薬を服用している高齢者では、服薬も一日に何度も繰り返される嚥下の場面です。
だからこそ、「何の薬を飲んでいるか」だけでなく、「その薬をどう飲んでいるか」を見ることが重要です。誤嚥性肺炎を繰り返すのに食事中には問題が見つからない。そんなときには、食事以外の日常生活にも目を向けることで、新しい予防の手掛かりが見つかるかもしれません。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。
当院のワンポイント
服薬も「嚥下」です。毎日行っていることだからこそ、薬の飲み方は見過ごされがちです。薬を飲むときだけ咳をする。錠剤が口に残る。喉につかえる。何錠もまとめて流し込んでいる。こうした様子があれば、服薬方法についても確認する価値があります。
私たちは、食事の場面だけではなく、患者さんが一日の中で「何を、いつ、どのように飲み込んでいるのか」を見ることが誤嚥性肺炎の予防には大切だと考えています。食事を評価する医療から、生活の中にあるすべての「飲み込む」を見る医療へ。そこにも、繰り返す誤嚥性肺炎を防ぐためのヒントがあります。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。