薬剤が原因だった嚥下障害と誤嚥性肺炎 ― 「薬の副作用」に気づき、再発を防ぐことができたケース
これまで脳卒中後遺症、パーキンソン病、認知症、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者、サルコペニア・低栄養、口腔機能低下症、介護施設、在宅療養、COPD、胃食道逆流症(GERD)、糖尿病と、さまざまな背景による誤嚥性肺炎をご紹介してきました。今回は、見落とされることの多い「薬剤による嚥下障害」を背景に発症した誤嚥性肺炎についてご紹介します。
高齢者では複数の病気を抱え、多くの薬を服用していることが少なくありません。なかには、眠気や口腔乾燥、筋肉の動きの低下、嚥下反射の低下などを引き起こし、誤嚥性肺炎のリスクを高める薬剤もあります。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。
症例:M様(83歳・女性・仮名)
高血圧、糖尿病、不眠症、軽度のうつ病で複数の医療機関へ通院しており、毎日8種類以上の薬を服用していました。ここ半年ほど、ご家族が次のような変化を感じていました。
- 食事中にぼんやりしていることが増えた
- 食事に時間がかかる
- 水分で時々むせる
- 日中も眠そうにしている
ある日、発熱と咳が続き、病院で誤嚥性肺炎と診断され入院となりました。肺炎は改善しましたが、以前より飲み込みが悪くなった気がするとのことで、当院を受診されました。
当院での評価
誤嚥性肺炎の原因を調べるため、嚥下機能だけでなく、服用中の薬剤についても詳しく確認しました。
嚥下内視鏡検査(VE)
VEでは、嚥下反射の遅延、軽度の咽頭残留、水分での喉頭侵入を認めました。重度の嚥下障害ではありませんでしたが、反応全体がやや鈍くなっている印象でした。
嚥下エコー
舌骨運動は保たれていましたが、嚥下開始までの時間が延長し、嚥下後の咽頭残留も認められました。被ばくがなく繰り返し評価できるため、薬剤調整後の変化を確認する目的で継続的に評価することにしました。
服薬内容の確認
服薬状況を確認すると、睡眠薬、抗不安薬、抗コリン作用を有する薬剤などが処方されていました。これらの薬剤は、眠気、口腔乾燥、注意力の低下、嚥下反射の低下を引き起こし、誤嚥のリスクを高める可能性があります。そこで主治医と相談し、薬剤の見直しを行うことにしました。
対処・介入
- 薬剤調整:内科・精神科の主治医と連携し、必要性を再評価したうえで、眠気の強い薬剤を減量し、服薬内容を整理しました。
- 嚥下リハビリテーション:言語聴覚士による嚥下訓練を開始しました。飲み込みだけでなく、覚醒レベルを保ちながら食事をする方法についても指導しました。
- 口腔ケア:口腔乾燥に対するケアを強化し、歯科衛生士による専門的口腔ケアを開始しました。必要に応じて保湿剤も使用しました。
- 多職種カンファレンス:歯科医師、主治医、薬剤師、看護師、言語聴覚士で情報を共有し、服薬状況や嚥下機能の変化を定期的に確認しました。
※ 薬剤の中止や変更は、必ず主治医の管理のもとで行われます。当院が薬の内容を単独で変更することはありません。自己判断で薬を中止・変更しないでください。
経過
薬剤調整から約3か月後の再評価では、日中の傾眠の減少と、食事中に覚醒を保てる時間の増加が確認されました。嚥下エコーでも嚥下開始時間の改善が認められ、むせ込みも減少しました。その後1年以上、誤嚥性肺炎の再発なく生活されています。
※ 改善の程度には個人差があり、薬剤調整の効果も一人ひとり異なります。すべての薬剤が変更できるわけではありません。必ず主治医と相談しながら進めることが重要です。
ご家庭でできる予防のポイント
- 「最近眠そう」「ぼんやりしている」という変化を見逃さない
- 新しい薬を飲み始めてからむせが増えていないか確認する
- 口の乾燥にも注意する
- 自己判断で薬を中止しない
- 定期的に服薬内容を見直してもらう
- 気になる変化があれば医師・薬剤師へ相談する
おわりに
誤嚥性肺炎は、病気そのものだけではなく、「治療のために服用している薬」が影響していることもあります。高齢者では複数の病気を抱えていることが多く、薬の種類が増えるほど、副作用や薬同士の相互作用による影響も考慮する必要があります。
私たちは、嚥下機能だけを見るのではなく、「どのような薬を服用しているか」「生活にどのような影響が出ているか」という視点も大切にしています。誤嚥性肺炎を予防するためには、歯科医師だけでなく、主治医や薬剤師など、多職種が連携しながら患者さんにとって最適な治療を考えていくことが重要です。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。
当院のワンポイント
「薬」は病気を治す一方で、「食べる力」に影響を与えることがあります。高齢者では、眠気、口腔乾燥、筋力低下、認知機能への影響など、さまざまな副作用が重なり、誤嚥性肺炎のリスクが高まることがあります。
当院では、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下エコーによる評価に加え、服薬内容や生活状況も総合的に確認し、必要に応じて主治医や薬剤師と連携しながら診療を行っています。「何を食べるか」だけでなく、「どんな薬を飲んでいるか」も、誤嚥性肺炎の予防には重要な情報です。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。