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実例

「食べると息苦しい」がサインだった ― 呼吸と嚥下のタイミングが崩れていた誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎の予防では「飲み込む力」に注目することが多いのですが、実はもう一つ重要な機能があります。それが呼吸です。私たちは普段、呼吸と嚥下を無意識のうちに上手に切り替えながら食事をしています。ところが、高齢になって呼吸機能が低下したり、少し動くだけでも息切れするようになったりすると、「呼吸すること」と「飲み込むこと」のタイミングが合わなくなる場合があります。

今回は、食事中のむせだけを見ていては分からなかった、呼吸と嚥下の協調性に注目したケースをご紹介します。なお、COPDそのものの検査・多職種介入についてはCOPDに伴う誤嚥性肺炎のケースでご紹介しています。本記事は食事中の「呼吸の様子」をどう観察するかに絞ってご説明します。

※ 本症例は、臨床でみられる経過をもとに構成した架空の複合症例です。

症例:Y様(82歳・男性・仮名)

長年の喫煙歴があり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で呼吸器内科に通院していました。自宅内の移動は自立していましたが、最近では少し歩くだけでも息切れするようになっていました。食事は普通食で、水分を飲んでも激しくむせることはほとんどありません。ところが半年ほど前から、次のような変化がみられるようになりました。

  • 食事の途中で息苦しくなる
  • 食べる速度が以前より速くなった
  • 食事中に何度も大きく息を吸う
  • 食後に痰が増える
  • 食事の後半になると疲れる

その後、発熱と呼吸状態の悪化によって入院し、誤嚥性肺炎の可能性を指摘されました。退院後、ご家族から「それほどむせていないのに、なぜ誤嚥性肺炎になったのでしょうか」とご相談がありました。

当院での評価

嚥下だけを見ると大きな異常はない

嚥下機能を評価すると、年齢相応の軽度な機能低下はみられましたが、少量ずつ落ち着いて摂取すれば比較的安定していました。ところが、実際に少し長い時間食事を続けてもらうと変化が現れました。食事が進むにつれて呼吸が速くなり、一口食べるたびに大きく息を吸うようになったのです。さらに後半になると、姿勢も少し崩れてきました。そこで、嚥下そのものだけではなく、食事中の呼吸状態に注目しました。

飲み込む瞬間、呼吸は一時的に止まっている

食べ物を飲み込む瞬間には、通常、一時的に呼吸が止まります。食物が気道へ入らないよう、身体が呼吸と嚥下を巧みに調整しているためで、嚥下後には呼吸を再開します。ところが呼吸に余裕がなくなると、「早く息をしたい」という身体の要求が強くなり、そのため飲み込みと呼吸の切り替えが不安定になる可能性があります。特に、食事の後半で息切れが強くなる患者さんでは、食事開始時には問題がなくても、疲労とともに安全性が低下することがあります。

「早く食べる」が悪循環になっていた

Y様のご家族は食事中のむせを注意深く見ていましたが、「食事中に息が上がっていないか」という視点はありませんでした。詳しく観察すると、Y様は食事後半になるほど呼吸が速くなり、次の一口を急いで口へ運んでいました。ご本人に聞くと、「ゆっくり食べると、かえって途中で疲れてしまうから早く食べていた」とのことでした。ところが、その「早く食べる」という行動が、さらに呼吸と嚥下の余裕をなくしていた可能性がありました。

呼吸器内科とも情報を共有し、呼吸状態、活動時の息切れ、食事中の状態を総合的に確認しました。誤嚥性肺炎を考える際には、口・咽頭・食道だけを見るのではなく、肺や呼吸機能まで含めて考える必要があると判断しました。

対処・介入

Y様は食事をできるだけ早く終わらせようとしていたため、一口ごとに呼吸を整えながら食べるようにし、息が上がってきた場合には無理に次の一口を入れず、一度休憩するようにしました。また、一回の食事を最後まで無理に食べ続けるのではなく、栄養状態を確認しながら食事方法を検討しました。重要なのは「全部食べること」より「安全に必要な栄養を摂ること」です(食事介助のペースを見直したケースもご参照ください)。

呼吸がしやすく、なおかつ安全に嚥下できる姿勢も検討しました。姿勢は患者さんの身体状況によって異なるため、一律に「この角度が正しい」と考えず、個別に評価することが重要です。呼吸器内科やリハビリテーションスタッフと連携し、Y様の状態に合わせた呼吸リハビリテーションも継続しました。嚥下訓練だけではなく、「食べるための呼吸機能を維持する」という視点を取り入れています。

呼吸機能が原因の一つと考えられても、口腔ケアが不要になるわけではありません。誤嚥性肺炎は複数の要因が重なって発症することが多いため、口腔内の細菌を減らすための毎日の口腔ケアと定期的な専門的口腔管理も継続しました。

経過

約3か月後、Y様は食事途中で意識的に休憩を取れるようになりました。食事後半の強い息切れも以前より少なくなり、食後の痰も減りました。ご本人からも、早く食べるより途中で休むほうが最後まで食べられるという実感が聞かれました。その後も呼吸器内科と連携しながら、呼吸状態、栄養状態、嚥下機能、口腔環境を継続して確認しています。

※ 改善の程度には個人差があり、状態や基礎疾患によって経過は異なります。この対応だけで誤嚥性肺炎を完全に予防できるわけではありません。しかし、「飲み込み」だけではなく「呼吸との組み合わせ」を見ることが、予防策を考える重要な手掛かりになった症例でした。

ご家庭でできる予防のポイント

食事中には「むせ」だけでなく、呼吸の様子も観察してみてください。

  • 食事中に息が上がっていないか
  • 一口食べるたびに大きく息をしていないか
  • 食事後半になると呼吸が速くならないか
  • 食べる速度が極端に速くなっていないか
  • 食事途中で疲れていないか
  • 食後に痰が増えていないか
  • 食事後半に姿勢が崩れていないか

息苦しさが強い場合や呼吸状態が普段と違う場合には、無理に食事を続けず、必要に応じて主治医などへご相談ください。

おわりに

食べるという行為は、噛む、飲み込む、それだけではありません。その間にも私たちは呼吸をしています。つまり、「食べること」と「呼吸すること」は常に隣り合わせです。誤嚥性肺炎の予防では、嚥下機能の検査だけを見て「飲み込めています」と判断するだけでは十分でない患者さんもいます。

食事開始時はどうか、10分後はどうか、食事後半はどうか、息切れしていないか、疲れていないか。こうした時間の変化を見ることも重要です。誤嚥性肺炎を予防するためには、口や喉だけでなく、肺、呼吸、筋力、栄養、口腔環境まで含めて患者さん全体を見る必要があります。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。

当院のワンポイント

「飲み込めるか」だけでなく、「呼吸に余裕があるか」も見る。食事中にあまりむせない患者さんでも、途中から息が上がる、食べる速度が急に速くなる、食事後半に疲れる、食後に痰が増える、といった変化がある場合には、呼吸と嚥下の関係にも目を向けることが大切です。

私たちは、口腔・嚥下・呼吸・栄養・筋力・生活を別々に考えるのではなく、一つにつながった機能として評価することが誤嚥性肺炎の予防には必要だと考えています。「喉だけを見る嚥下評価」から、「呼吸しながら食べる人を見る評価」へ。そこにも、誤嚥性肺炎を防ぐための大切なヒントがあります。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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