胃食道逆流症(GERD)と夜間誤嚥 ― 睡眠中の「気づかない誤嚥」が誤嚥性肺炎につながったケース
これまで脳卒中後遺症、パーキンソン病、認知症、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者、サルコペニア・低栄養、口腔機能低下症、介護施設、在宅療養、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と、さまざまな背景による誤嚥性肺炎をご紹介してきました。今回は、見逃されやすい原因の一つである胃食道逆流症(GERD:Gastroesophageal Reflux Disease)と、睡眠中に起こる夜間誤嚥についてご紹介します。
誤嚥というと「食事中にむせること」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、眠っている間に胃の内容物や唾液が気道へ流れ込み、気づかないうちに誤嚥を繰り返しているケースもあります。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。
症例:K様(76歳・男性・仮名)
高血圧と逆流性食道炎で内服治療を受けていました。食事中のむせはほとんどなく、日常生活にも大きな支障はありませんでしたが、ご家族から次のような症状が続いているとのご相談がありました。
- 朝起きると咳き込むことが多い
- 夜中に咳をして目が覚める
- 朝、声がかすれていることがある
- 痰が絡んだような咳が続く
その後、38℃台の発熱と咳が出現し、誤嚥性肺炎と診断され入院となりました。肺炎は改善しましたが、原因がはっきりしないことへの不安から、退院後に当院を受診されました。
当院での評価
「食事中にむせない」という情報だけで安心することはできません。当院では、夜間の症状も含めて詳しく評価を行いました。
問診
詳しくお話を伺うと、次のことが分かりました。
- 就寝直前に夕食を摂ることが多い
- 食後すぐ横になる習慣がある
- 胸やけが週に数回ある
- 朝方の咳が特に強い
これらの経過から、夜間の胃食道逆流が疑われました。
嚥下内視鏡検査(VE)
VEでは、軽度の咽頭残留と、咽頭・喉頭粘膜の軽い発赤を認めましたが、明らかな誤嚥は認めませんでした。食事中の所見だけでは、肺炎の原因を十分に説明できない状態でした。
嚥下エコー
嚥下運動そのものは比較的保たれていましたが、軽度の咽頭残留がみられました。嚥下エコーは被ばくがなく繰り返し評価できるため、今後の機能変化を確認する目的で継続的に評価を行うことにしました。
消化器内科との連携
胃食道逆流症が疑われたため、消化器内科へ紹介しました。上部消化管内視鏡検査では逆流性食道炎の悪化が確認され、夜間の胃内容物の逆流が誤嚥性肺炎の一因である可能性が示唆されました。
対処・介入
消化器内科と連携しながら、次の介入を行いました。
- 逆流予防(生活習慣の改善):就寝2〜3時間前までに夕食を済ませる、食後すぐに横にならない、ベッドの頭側を少し高くする、といった工夫をご指導しました。
- 薬物療法:消化器内科で逆流性食道炎の治療薬を調整し、胃酸の逆流を抑える治療を継続しました。
- 嚥下リハビリテーション:咽頭残留を減らすための嚥下訓練を開始し、飲み込みのタイミングや食後の姿勢についても指導しました。
- 口腔ケア:夜間は唾液の分泌が減少し、口腔内の細菌が増えやすくなります。歯科衛生士による専門的口腔ケアと、ご自宅でのセルフケア方法を見直しました。
経過
約6か月後の再評価では、夜間の咳と朝方の痰の減少が確認されました。その後は誤嚥性肺炎の再発なく、外来で経過観察を継続されています。
※ 胃食道逆流症の程度や誤嚥のリスクには個人差があり、経過は状態や基礎疾患によって異なります。生活習慣の改善と定期的な評価を継続することが大切です。
ご家庭でできる予防のポイント
- 就寝直前の食事を避ける
- 食後2〜3時間は横にならない
- 胸やけや夜間の咳を放置しない
- 朝方の咳や声のかすれにも注意する
- 毎日の口腔ケアを継続する
- 気になる症状があれば早めに専門医へ相談する
おわりに
誤嚥性肺炎は、食事中の誤嚥だけで起こる病気ではありません。睡眠中の胃内容物の逆流や唾液の誤嚥など、本人も気づかない「夜間誤嚥」が関係していることもあります。
私たちは、「食事中にむせるかどうか」だけではなく、一日の生活習慣や睡眠時の状態まで含めて総合的に評価することを大切にしています。誤嚥性肺炎を予防するためには、歯科、消化器内科、リハビリテーションなど、多職種が連携し、それぞれの原因に応じた対策を行うことが重要です。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。
当院のワンポイント
「夜の咳」は、誤嚥性肺炎のサインかもしれません。「朝になると咳が出る」「夜中にむせて目が覚める」「朝、声がかすれる」といった症状には、胃食道逆流や夜間誤嚥が関係している可能性があります。
当院では、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下エコーによる評価だけでなく、生活習慣や睡眠時の様子まで詳しくお伺いし、必要に応じて消化器内科など他科とも連携しながら診療を進めています。「昼間だけでなく、夜間の誤嚥にも目を向けること」が、誤嚥性肺炎を防ぐ新たな一歩になると私たちは考えています。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。