薬が飲みにくい・錠剤がのどに残るのはなぜ?服薬と嚥下(飲み込み)の関係
「錠剤が飲み込みにくい」「薬がのどに残っている感じがする」「粉薬でむせてしまう」——ご高齢のご家族の服薬について、こうしたご相談をいただくことがあります。毎日続くことですから、ご家族が「つぶして飲ませたほうがよいのだろうか」と迷われる場面でもあります。
薬の飲みにくさは、食べ物を飲み込む働き(嚥下機能)の変化とつながっていることがあります。この記事では、薬が飲みにくくなる背景、やってはいけない対処、そして飲み込みの面から見直せることを、摂食嚥下障害の診療を主軸とする東京都世田谷区・自由が丘エリアの go-en.デンタルクリニックが整理してご説明します。なお、お薬の内容や飲み方の変更そのものは、処方した医師・薬剤師が判断する領域です。ここでご紹介するのは一般的な情報ですので、実際の対応はかかりつけの医師・薬剤師にご相談ください。
薬が飲みにくくなるのはなぜ?
錠剤やカプセルは、形を変えずにそのまま飲み込むものなので、飲み込む力や口の中の状態が変われば、そのぶん負担になりやすいものです。食べ物であれば、口の中で噛んで唾液と混ぜ、飲み込みやすいひとまとまりにしてからのどへ送られます。薬にはその工程がありません。「食事はなんとか食べられるのに、薬だけ残る」ということが起こるのは、このためです。
錠剤・カプセルは、年齢や状態によって飲みにくくなることがあります
愛知県薬剤師会は、錠剤やカプセル剤について、散薬やシロップ剤などに比べると用量が正確で携帯に便利、保存にも耐え、服用しやすいといった特徴がある一方で、「高齢者や小児など患者の年齢や症状によっては、ときに服用しにくい場合が見受けられます」と説明しています。
また医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、水なしで飲める錠剤(口腔内崩壊錠)について、「一般の方のみならず、錠剤をうまく飲み込めない高齢者や水分摂取制限を受けている方にとっても有用でしょう」としています。「錠剤が飲みにくい」というのは、めずらしいことではありません。まず、無理を続けずに相談していただきたいことです。
なお、飲み込みにくさそのものに、服用しているお薬の影響が関わっていることもあります。この点は「飲み込みにくい」が続くのはなぜ?嚥下の5つの段階と考えられる原因でご説明していますので、あわせてご覧ください。
水の量と姿勢でも、のどの通り方は変わります
愛知県薬剤師会は、水なしで薬をのむと、のどや食道にひっかかったり、誤って気管に入る危険もあるとしています。寝たままでのむ場合も同様に、長くのどや食道にとどまって溶けてしまうことも多く、潰瘍などの原因になることもあると説明されています。そのうえで一般的な服薬の目安として、薬は体を起こし、少なくともコップ半分の水でのむべきであること、寝たきりの方にのませるときは上体を起こしてのませるようにすることが示されています。PMDAも、口腔内崩壊錠の服用時の注意として、寝たままの状態のときは水なしでは飲まないようにすることを挙げています。
ただし、水分そのものでむせやすい方や、持病で水分の量に制限がある方の場合、水の量を増やすことが必ずしも安全とは言えません。お茶や水でむせる、飲んだあとに咳が出るといった様子があるときは、水分の量や形(とろみをつけるかどうか)を自己判断で変えず、担当の医師・歯科医師・薬剤師や、言語聴覚士・管理栄養士にご相談ください。持病によって適切な水分量が異なる場合もあります。
また、お薬や食事のあとに息が苦しそう、声が出ない、顔色が悪い、ぐったりしているといったときは、飲み込みの問題として様子を見るのではなく、ためらわず救急要請(119番)を含めた速やかな受診をお願いします。お薬を使って体調に異常を感じたときも、すぐに医師・薬剤師にご相談ください。
「つぶす」「カプセルを外す」を自己判断で行わないでください
薬の形には意味があります
愛知県薬剤師会は、胃では溶けずに腸で溶ける工夫を凝らした薬(腸溶剤など)をかみ砕いて服用した場合、胃障害を起こしたり、胃酸などにより分解されてまったく効き目がなくなることがあると説明しています。また、長時間にわたって成分が徐々に溶けるよう工夫され、服用回数を減らせるようにした薬(徐放錠など)では、薬効の持続が期待できなくなるとされています。
そのため同会は、医薬品には製造段階でいろいろな工夫がされているので、特別な指示がない限り、勝手にかみ砕いたり、カプセルを外して服用しないよう案内しています。ご家族が「飲みやすくしてあげよう」という善意で行われることも多い対処ですが、薬の効き方そのものが変わってしまう可能性があるということです。
飲みにくいときは、剤形や飲み方の相談ができます
同会は、医薬品によっては錠剤・カプセル剤のほかに、同一成分で散薬やシロップ剤、坐剤など種々の形をもつ薬もあるとしており、錠剤やカプセル剤が服用できないときは、勝手に服用を中止せずに医師や薬剤師に遠慮なく相談するよう呼びかけています。
PMDAは、口腔内崩壊錠について、従来の水で飲む錠剤と生物学的同等性試験で同等性が確認されているため効果に差はなく、水で飲んだときと水なしで飲んだときの生物学的同等性にも差がないことが確認されていると説明しています(吸湿性が高いものもあるため、そうした錠剤は飲む直前に包装から取り出すといった注意も挙げられています)。
剤形や飲み方の見直しは、国の指針でも服薬支援の一例として挙げられています。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)は、処方の工夫と服薬支援の主な例のうち「調剤の工夫」として、一包化や貼付剤などの剤形選択の活用とならべて「嚥下障害患者に対する剤形変更や服用方法(簡易懸濁法、服薬補助ゼリー等)の提案」を挙げています。また、服薬アドヒアランス(指示どおりに薬を使えているか)が低下する要因の一つに「嚥下機能障害」を、あわせて「自己判断による服薬の中止(服薬後の体調の変化、有害事象の発現等)」を挙げています。飲みにくさを相談することは、わがままではなく、治療を続けるための工夫として位置づけられているということです。
あわせて愛知県薬剤師会は、高齢の方は薬の効きすぎによる副作用が多いため注意が必要で、自分の判断で量を多くしたり中止したりしないこと、受診や薬局での相談の際には現在用いている薬を必ず伝えることが必要だとしています。飲みにくさを理由に黙って飲むのをやめてしまうより、「この形が飲みにくい」「この時間は飲めていない」と具体的に伝えるほうが、対応の選択肢は広がります。
とろみ剤・服薬補助ゼリーを使うときに知っておきたいこと
飲み込みにくい方の服薬を助けるために、とろみ調整食品(とろみ剤)や服薬補助ゼリーが使われることがあります。ご自宅でも施設でも広く行われている方法ですが、薬との組み合わせについては、いくつかの報告があります。
薬の溶け方が変わることがあります
薬学雑誌(2018年・138巻3号)に掲載された報告では、とろみ調整食品のなかには、崩壊の速い錠剤や口腔内崩壊錠などの崩壊・溶出に影響するものがあるとされています。さらに、崩壊・溶出の遅れは薬の効きにも影響し、ある口腔内崩壊錠では糖負荷試験時の血糖値の変化に明らかな差がみられたと報告されています。そのため、錠剤の服用を助ける目的でとろみ調整食品を使う場合は、薬の崩壊・溶出・薬効への影響が少ない製品を選ぶ必要があるとまとめられています。
福岡県薬剤師会が2014年に紹介している調査でも、とろみ調整剤の水溶液と混ぜて服用した場合には、血中濃度が最も高くなるまでの時間の遅れが認められた一方、嚥下補助ゼリーでは薬物単独の場合と同様だったとされています。吸収された量そのものへの影響は大きくなかったとも報告されています。同会は、紹介した事例がすべての患者さんに当てはまるものではないことにも触れています。
濃さも、薄さも、自己判断で変えないでください
つまり、とろみ剤やゼリーは飲み込みを助ける有用な手段ですが、「何に、どのくらいの濃さで混ぜるか」によって薬の溶け方が変わることがあるということです。使ってよいか、どの製品・どの濃さがよいかは、お薬を受け取っている薬局の薬剤師にご確認ください。
飲みにくいからと、とろみを自己判断で濃くしていくことはお控えください。反対に、すでにとろみを使っている方が、お薬のためにご家族の判断で薄くしたり、やめたりすることも避けてください。とろみの有無や程度は、担当の医師・歯科医師・薬剤師、言語聴覚士・管理栄養士にご相談のうえで決めていただくものです。食事側のとろみや食形態の考え方については、きざみ食・ミキサー食の違いと選び方でもご説明しています。
「薬が飲みにくい」は、飲み込み全体のサインかもしれません
あわせて見ていただきたい、食事の様子
服薬のことだけを切り離して考えるのではなく、ふだんの食事の様子もあわせて見ていただくと、背景が見えやすくなります。
- 食事に以前より時間がかかるようになった
- 食後に声がかすれる、のどがゴロゴロと鳴る
- 飲み込んだあと、口の中やのどに残る感じがある
- お茶や水など、水分でむせることが増えた
- 食べる量が減り、体重が落ちてきた
薬の飲みにくさとこうした変化が重なっているときは、飲み込む働きに変化が起きているサインである場合があります。こうしたサインの見方と受診の目安は食事中によくむせるのはなぜ?高齢のご家族に見られるサインと受診の目安で、飲み込みのしくみそのものは摂食嚥下障害とはのページでご説明しています。
お口を清潔に保つことや、飲み込みの状態に合った食べ方を続けることは、誤嚥性肺炎の予防につながると考えられています。ただし、あらわれ方には個人差があり、結果を保証するものではありません。
歯科でお手伝いできること
当院は摂食嚥下障害の診療を主軸としています。「薬が飲みにくい」というご相談では、次のような点を確認します。
- お口の状態——歯や入れ歯の具合、口の中の乾き、汚れの残り方
- 飲み込みの様子——実際に食べる・飲む場面を拝見したうえでの評価
- 姿勢と一口の量、食事の形——ご自宅や施設での「いまの飲み方」に合っているか
- 日々のお口のケアの方法——ご家族・施設スタッフの方へのご案内
お薬の内容や剤形の変更は医師・薬剤師が判断することですので、当院で確認した飲み込みの状態を、必要に応じて情報としてお伝えしながら連携します。なお、診療の効果や改善のあらわれ方には個人差があり、結果を保証するものではありません。
パーキンソン病のある方の飲み込みの特徴と相談先の目安は、パーキンソン病の嚥下障害にまとめています。
通院が難しい方には、訪問診療という方法があります。健康保険による訪問診療は世田谷区を中心とした近隣エリア、自由診療(自費)による訪問診療は東京都・神奈川県の全域が対応の目安です。ご自身で通院できる方は、外来(完全予約制)でも承っています。
自由診療(自費)は公的医療保険が適用されず、全額自己負担となります。自費の嚥下診療(訪問)は、ご自宅・施設へ伺って摂食嚥下の評価、嚥下訓練とご本人・ご家族への指導、お口のケアを行うもので、初回22,000円(税込)・2回目以降16,500円(税込)、標準的な4〜6回の場合、期間はおおよそ3か月程度・総額71,500円〜104,500円(税込)程度が目安です(別途、交通費の実費をいただきます)。嚥下健診(デンタルドック)は、飲み込み・お口の状態を確認し、結果にもとづくご説明・今後に向けたアドバイスを行う健診で、16,500円(税込)・当日1回で完了し、回数の目安は1回です(ご自宅・施設へ伺って受けられる場合は、別途 交通費の実費をいただくことがあります)。評価や訓練の際にまれにむせ込み・一時的な疲労・不快感が生じることがあり、全身の状態によっては行える内容が制限される場合があります。診療の効果や改善の程度には個人差があり、結果を保証するものではありません。ご不明な点はお電話(03-6459-7970)またはご相談フォームからお問い合わせください。詳しくは料金についてのページもご覧ください。
まずはご相談ください
「薬が飲みにくい」は、ご本人が我慢してしまいがちで、ご家族も相談先に迷いやすいお困りごとです。お薬そのもののことは医師・薬剤師、飲み込みやお口のことは歯科という役割の違いはありますが、どちらに聞けばよいか分からない段階のご相談でも構いません。当院は、誤嚥性肺炎に長年向き合ってきた歯科医が担当し、一般社団法人 日本誤嚥性肺炎予防協会に加盟しています。東京都世田谷区・自由が丘エリアで、ご家族の食事や服薬にご不安があるときは、まずはご相談ください。


