「食事のときは起きているのに、途中から眠くなる」― 覚醒状態の変化から考える誤嚥性肺炎予防
食事を始めるときには、しっかり目を開けている。会話もできる。最初の数口は問題なく食べられる。ところが、食事が進むにつれて目を閉じる時間が増え、声をかけないと次の一口を食べなくなる――。高齢の方の食事では、このような場面がみられることがあります。
ご家族は「年だから食事中に眠くなるのでしょう」と考えていました。しかし、安全に食べるためには、口や喉の機能だけでなく「十分に目が覚めていること」も重要です。今回ご紹介するのは、食事開始時の嚥下には大きな問題がみられなかったものの、食事後半になると覚醒状態が低下し、口の中に食べ物を残したまま眠りかけていたケースです。
なお、食事中の様子については別の切り口でもご紹介しています。気が散って食べ物を残すようになった認知症と食事中の注意力のケース、お薬の副作用が影響していた薬の見直しから考えたケース。本記事は食事の途中で眠くなる「覚醒」の変化に絞ってご説明します。
※ 本症例は、臨床でみられる状況を参考に構成した架空の複合症例です。
症例:T様(91歳・女性・仮名)
娘さんご夫婦と自宅で生活していました。認知機能の低下があり、日常生活には介助が必要でした。食事は軟らかく調整したものを、ご家族の見守りのもとで口から食べていました。
食事開始時には「今日のおかずは何?」と尋ねるほどしっかりしています。最初の10分ほどは、ご自分でスプーンを持って食べることもできます。ところが最近、食事の途中から目を閉じるようになりました。娘さんが「お母さん、まだご飯残ってるよ」と声をかけると目を開け、また一口食べます。しかし数分すると再び目を閉じます。それでも娘さんは「時間をかければ食べられるから」と、声をかけながら最後まで食事を続けていました。
ある日、T様は発熱と痰の増加で受診し、肺炎と診断されました。経過から誤嚥の関与も疑われ、肺炎の治療後に当院へご相談されました。
当院での評価
食事開始時だけを見ると比較的安定していました
T様の食事場面を確認しました。食事開始時には目もしっかり開いています。声かけにもすぐ反応します。一口量を調整すると、比較的落ち着いて飲み込むことができました。
ところが15分ほどすると、徐々に変化が現れました。スプーンを持つ手が止まります。目を閉じます。声をかけると目を開けますが、反応するまで少し時間がかかります。さらに口腔内を確認すると、頬の内側に食べ物が残っていました。ご本人は、まだ口の中に食べ物があることを十分に認識していない様子でした。
「目を開けた」=「安全に食べられる」ではない
ご家族は「声をかければ目を開けるから大丈夫」と考えていました。しかし、目を開けたことと、安全に食事を続けられる覚醒状態に戻ったことは、必ずしも同じではありません。眠気が強い状態では、食べ物を認識する、口の中で処理する、飲み込むといった一連の動作が不安定になる場合があります。口腔内に食べ物を残したまま再び眠ってしまえば、その後の誤嚥につながる可能性についても考える必要があります。そこでT様では、「何を食べるか」だけではなく、「いつ食べるか」を見直すことにしました。
眠くなる時間帯に夕食をとっていました
ご家族に一日の生活を詳しく伺うと、T様には比較的覚醒している時間帯と、眠気の強い時間帯があることが分かりました。午前中は比較的しっかりしています。一方、夕方になると疲れが出て、ウトウトすることが増えていました。ところが夕食は、ご家族の仕事の都合もあり午後7時半ごろでした。その時間には、T様はすでにかなり眠くなっていました。つまり、食事内容を変えるだけでは解決しない、生活リズムの問題も考える必要がありました。
対処・介入
- 目が覚めている時間帯に食事を合わせる:可能な範囲で、T様が比較的しっかり目を覚ましている時間帯に食事を摂れるよう生活を調整しました。「家族の食事時間に患者さんを合わせる」のではなく、「患者さんが食べやすい時間に食事を合わせる」という考え方です。
- 眠くなったら無理に続けない:食事中に目を閉じ、反応が鈍くなった場合には、「あと三口だから」と無理に食べさせないようにしました。一度休憩する、状態によっては食事を終了するなど、その時点の覚醒状態を優先しました。
- 食事の終わりに口の中を確認する:T様では、眠くなったときに頬の内側へ食べ物が残る傾向がありました。そこで食事を終了するときには、口腔内に食物残渣がないか確認するようにしました。必要な口腔ケアも行いました。
- 眠気の原因を主治医と共有する:高齢の方の眠気には、睡眠不足、全身疾患、脱水、感染症、薬剤などさまざまな要因が関係することがあります。そのため、「食事中に以前より眠るようになった」という情報を主治医とも共有しました。特に、急に眠気が強くなった場合には単なる加齢と考えず、全身状態の変化を確認することが重要です。
- 完食にこだわらず栄養を確保する:眠気の強い状態で完食を目指すことは、T様にとって負担になる可能性がありました。そこで栄養状態も確認しながら、必要に応じて管理栄養士などとも相談し、ご本人の生活リズムに合わせた摂取方法を検討しました。
経過
食事時間を見直したところ、特に夕食時の様子が変わりました。以前より早い時間帯に食事を摂ることで、食事中に目を閉じる回数が減りました。食事時間そのものも短くなり、口腔内に食べ物が残ることも少なくなりました。ご家族とも、何を食べるかだけでなく、いつ食べるか、眠くなったら無理に続けないという考え方を共有できました。その後も主治医などと連携しながら、嚥下機能、覚醒状態、栄養状態、口腔環境を継続して確認しています。
※ 改善の程度には個人差があり、状態や基礎疾患によって経過は異なります。食事時間を変更したことだけで肺炎を防げたと断定することはできません。しかしT様では、嚥下機能だけでなく食べるときの覚醒状態に注目したことが、再発予防を考える重要なポイントになりました。
ご家庭でできる予防のポイント
高齢のご家族の食事では、「むせるかどうか」だけでなく、食事中の覚醒状態も観察してみてください。
- 食事の途中から目を閉じていないか
- 声をかけないと食事が進まなくなっていないか
- 食べ物を口に入れたまま動きが止まっていないか
- 口の中に食べ物を残したまま眠っていないか
- 食事後半になると反応が鈍くなっていないか
- 朝・昼・夕で食べ方に大きな違いがないか
- 特定の時間帯だけ極端に眠くならないか
- 最近急に眠気が強くなっていないか
特に、急に傾眠が強くなった、呼びかけへの反応が普段と違う、意識状態がおかしいといった場合には、食事を続けることよりも全身状態の確認を優先し、必要に応じて医療機関へご相談ください。
おわりに
安全に口から食べるために必要なのは、歯、舌、喉、姿勢、呼吸だけではありません。そのすべてを働かせるための「覚醒」も重要です。誤嚥性肺炎の予防では、「この人は何を食べられるのか」という問いだけでなく、「この人は、いつなら最も安全に食べられるのか」という問いを加えてみることも大切です。
特に高齢の方では、一日の中でも身体の状態が変化します。朝は元気、午後は疲れる、夕方になると眠くなる。その人自身の生活リズムがあります。食事を生活時間へ機械的に当てはめるのではなく、その人の身体のリズムに食事を合わせる。これも、誤嚥性肺炎の予防の一つの考え方です。夕食後の眠気で口腔ケアが抜けてしまう場合については就寝前の口腔ケアを見直したケースもご参照ください。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。
当院のワンポイント
「口が動くか」だけでなく、「頭がしっかり起きているか」を見る。食事を始める前に、目はしっかり開いているか、呼びかけに普段通り反応するか、会話ができるか、食べ物を認識しているか。そして食事中にも、その状態が最後まで続いているかを確認してみてください。「起こせば食べる」からといって、無理に完食を目指す必要はありません。
誤嚥性肺炎の予防を、「何を食べるか」から「いつ、どのような状態で食べるか」まで考える予防へ。食事の安全性を決めているのは、食べ物の硬さや嚥下機能だけではありません。その一口を飲み込むとき、患者さんが十分に目覚めているか。そこにも、誤嚥性肺炎を予防するための大切な視点があります。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。