「とろみの濃さが日によって違う」― 「むせる日」と「むせない日」があった方の場合
飲み物にとろみをつけているのに、むせる日とむせない日がある。ご家族から、そのようなご相談をいただくことがあります。本人の体調だけでなく、「とろみそのものの濃さ」が日によって違っていることが、背景にあるかもしれません。今回は、とろみの付け方に着目した症例をご紹介します。
なお、「水分でむせるから」と飲む量を減らしていた方については脱水と口腔乾燥から考えたケースでご紹介しています。本記事はご家庭で作るとろみの「濃さのばらつき」に絞ってご説明します。
※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。
症例
80代の女性です。脳梗塞の既往があり、ご自宅で娘さんと同居しています。数か月前から、水分にとろみをつけて飲むように指導を受けていました。娘さんは毎日、お茶や汁物にとろみ剤を加えておられます。
ところが、「同じようにしているのに、むせる日とむせない日がある」とのことで、当院へご相談がありました。むせるのは主に朝や夕方で、飲んだ直後に咳き込むことが多いとのお話でした。発熱や食事量の極端な低下は、その時点ではみられていませんでした。
当院での評価
まず、ご本人のお口の状態や、飲み込みの様子を確認しました。口腔内には大きな問題はなく、意識もはっきりしておられ、飲み込みの動きそのものは日によって大きく変わるようには見えませんでした。
次に、ご家庭でのとろみの付け方を詳しくうかがいました。とろみ剤は、スプーンですくって「だいたいこのくらい」の感覚で入れておられました。お茶の量はコップによって違い、混ぜる時間も忙しさによって変わっていました。また、朝にまとめて作り置きをして、夕方まで置いておくこともあるとのことでした。
実際に、ご家庭と同じやり方で作っていただき、とろみの様子を確認しました。スプーンを傾けたときの流れ方は、作るたびに少しずつ違い、ある場面では「かなりさらさら」、別の場面では「かなりどろっと」している様子が見られました。とろみが薄い日は水分がすばやくのどへ流れ込みやすく、濃すぎる日は飲みづらさから、口やのどに残りやすいことがあります。
とろみの濃さはなぜ大切なのか
とろみは、水分の流れる速さをゆるやかにして、飲み込む準備が整う前にのどへ流れ込むことを防ぐための工夫です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類2021でも、とろみには「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」という段階が示されており、どの段階が適しているかは、飲み込みの状態に応じて個別に判断されます。
大切なのは、「とろみをつけているかどうか」だけでなく、「いつも同じ濃さになっているかどうか」です。同じ量のとろみ剤でも、飲み物の種類や温度、混ぜ方、置いておく時間、製品の種類によって、仕上がりの濃さが変わることがあります。ご家庭では、この「ばらつき」に気づきにくいことが少なくありません。
対処・介入
まず、ご本人に合うとろみの濃さを、主治医や言語聴覚士など関わる専門職と確認していただきました。そのうえで、ご家庭で再現しやすいように、次のような工夫をご提案しました。
感覚ではなく、計量スプーンやスケールを使って、飲み物の量に対するとろみ剤の量を決めました。使うコップを固定して、入れる飲み物の量が毎回同じになるようにしました。混ぜる時間も、数を数えるなど、目安を決めました。作り置きをする場合は、置いておく時間によって濃さが変わることがあるため、製品の説明書きを確認し、その日に飲む分は飲む直前に作ることを基本としました。
濃さの確認方法も、娘さんと一緒に決めました。スプーンを傾けたときに、液がどのように流れ落ちるかを、毎回見る習慣です。さらに、写真付きのメモを作り、デイサービスやヘルパーさんなど、ほかの方がとろみをつける場合にも、同じ濃さを再現できるようにしました。
経過
その後の数週間で、娘さんによると、以前よりむせる日が少なくなったように感じるとのことでした。一方で、この時期には季節の変わり目で、ご本人の体調や食事内容にも変化があり、とろみの付け方の変更だけが影響したとは言い切れません。
ただ、「毎回、同じ濃さのとろみを作る」という工夫は、ご家族にとっても分かりやすい目標となり、安心して水分を提供する助けになったようでした。継続して様子を見ていくことにしています。
ご家庭でできる予防のポイント
とろみが必要な方の飲み物は、「だいたい」ではなく、量って作ることをおすすめします。使うコップ、飲み物の量、とろみ剤の量、混ぜる時間を、できるだけ毎回そろえます。製品によってとろみのつき方や時間による変化が違いますので、お使いの製品の説明書きを確認してください。
とろみの濃さは、本人の状態によって適した段階が異なります。「薄くすれば飲みやすい」「濃くすれば安全」といった自己判断は避け、医師や言語聴覚士、歯科医師などに相談して決めていきましょう。ご家族だけでなく、ヘルパーさんやデイサービスなど、関わる方々と作り方を共有しておくことも大切です。
また、むせが続く、飲み込みにくそうな様子が見られる、発熱や痰の増加がある、といった場合は、とろみの問題だけと決めつけず、早めに医療機関へ相談してください。
おわりに
とろみは、毎日の生活の中で、いちばん身近な「飲み込みを助ける工夫」の一つです。だからこそ、その濃さが日によって違うことは、見落とされやすいポイントでもあります。「むせる日がある」ときは、ご本人の体調に加えて、飲み物の作り方も一度見直してみる。そのような視点が、安心できる食事につながるかもしれません。
当院のワンポイント
とろみは「つけているか」より「毎回同じ濃さか」。スプーンで量る、コップをそろえる、その日に飲む分は直前に作る。まずはこの三つから、始めてみてください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。