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症例紹介

「お茶を飲むときだけむせる」― コップの傾きとあごの角度

食事そのものは問題なく食べられるのに、お茶や水を飲むときだけむせる。こうしたご相談は少なくありません。飲み物の濃度や量に目が向きやすいところですが、実は「どのように飲んでいるか」、つまりコップの持ち方や傾け方、そのときのあごの角度が関わっていることがあります。今回は、飲み方に着目した症例をご紹介します。

なお、「水分でむせるから」と飲む量を減らしていたケースは脱水と口腔乾燥から考えたケース、飲み物のとろみについてはとろみの濃さから考えたケースでご紹介しています。本記事はコップの傾け方と、飲むときのあごの角度に絞ってご説明します。

※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。

症例

80代の女性です。ご主人と二人暮らしで、日常生活はほぼ自立しています。半年ほど前から、お茶や水を飲むときに、むせることが増えました。食事のときは、ご飯やおかずでむせることはほとんどなく、飲み物のときだけ目立つとのことでした。発熱や痰の増加はなく、体重の大きな変化もみられていませんでした。

ご本人は、「年のせいで、のどが弱くなったのだと思う」と話しておられました。ご主人の心配もあり、当院にご相談がありました。

当院での評価

まず、普段どおりにお茶を飲んでいただき、様子を観察しました。いつも使っておられるのは、縁がまっすぐの、やや深めのマグカップです。カップの中身が少なくなると、残りを飲み干そうとして、カップを大きく傾けながら、あごを上げる姿勢になっていました。そのタイミングで、むせが出ていました。

口の中の状態や、舌・唇の動きには、大きな問題はみられませんでした。飲み込みの様子を確認するいくつかの検査でも、姿勢を整えてゆっくり飲んだ場合には、むせは目立ちませんでした。つまり、飲み込む力そのものというより、飲み方の癖が影響している可能性が考えられました。

なぜコップの傾きでむせやすくなるのか

コップの中身が減ってくると、最後まで飲もうとして、あごが上がりやすくなります。一般に、あごが上がった姿勢では、のどの形が変わり、飲み物が勢いよくのどへ流れ込みやすくなると考えられています。飲み込むタイミングを調整しにくくなり、むせにつながる場合があります。

また、縁がまっすぐなコップでは、中身が少なくなったとき、鼻がコップに当たるため、さらにあごを上げざるを得なくなります。こうした飲み方は、年齢にかかわらず誰にでも起こり得ますが、飲み込みの機能が少し低下している方では、むせとして現れやすくなる可能性があります。

ただし、あごの角度が飲み込みにどの程度影響するかは、一人ひとりの状態によって異なります。あごを引く姿勢が合う方もいれば、そうでない方もいます。そのため、飲み方の工夫は、専門職による個別の評価を踏まえて決めることが大切です。

対処・介入

まず、コップを見直しました。鼻が当たる部分を切り欠いた形のコップがあります。これを使うと、あごを上げずに最後まで飲みやすくなります。ご自宅では、まず試しやすいものとして、口が広めで浅いカップを使うことにしました。

次に、飲み方を練習しました。一度に飲む量を少なめにすること。飲み込む前に、あごを軽く引くこと。カップの中身が減ってきたら、無理に飲み干さず、お茶を足してから飲むこと。実際に当院でご本人と一緒に確認し、ご主人にも同じ方法をお伝えしました。

さらに、むせた場合の対応も確認しました。あわてて背中をたたくのではなく、落ち着いて、しっかり咳をしてもらうこと。むせが続く場合や、息苦しさが出た場合は、すぐに医療機関へ連絡すること。こうした点を、ご夫婦で共有しました。

経過

その後の数週間で、ご本人によると、お茶でむせることが減ってきたとのことでした。ご主人も、同じように感じておられるようでした。

ただし、この時期には、季節の変化や体調の波などもあり、コップの変更や飲み方の工夫だけが変化の理由とは言い切れません。引き続き、飲み物や食事の様子を確認しながら、経過をみています。

ご家庭でできる予防のポイント

まず、普段どのように飲んでいるかを、一度観察してみましょう。コップの中身が減ったときに、あごが上がっていないか。鼻がコップに当たっていないか。慌てて一気に飲んでいないか。こうした点が見つかることがあります。

コップは、口が広めで、傾けても鼻が当たりにくい形のものが飲みやすい場合があります。市販の切り欠きコップも選択肢になります。ただし、どのコップや姿勢が合うかは、人によって異なります。ご自身の判断で、あごを強く引きすぎたりせず、気になる場合は、歯科医師、言語聴覚士、看護師などの専門職に相談してください。飲み物でのむせが続く、発熱や痰が増えた、息苦しさがあるといった場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

おわりに

飲み物でむせるとき、私たちはつい「飲み込む力が落ちた」と考えがちです。もちろん、そうした場合もあります。しかし、コップの形や傾け方、あごの角度といった、ささいな飲み方の癖が背景にあることもあります。むせる場面を丁寧に観察することが、その人に合った対応を見つける第一歩になります。

当院のワンポイント

お茶を飲むときだけむせる場合は、コップの中身が減ったときのあごの角度に注目してみてください。飲み方の工夫が合うかどうかは人によって違いますので、気になるときはご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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