スプーンが大きすぎて、むせていた ― 一口量と食具の見直し
食べ物の形や飲み物のとろみには気を配っていても、「何ですくって口に運ぶか」までは見落とされがちです。食具の大きさや、一口にすくう量は、むせやすさに関わることがあります。今回は、ご自身で食事をとっておられる方の、スプーンの大きさと一口量に着目した症例をご紹介します。
なお、介助する側のスプーンの量やペースについては食事介助から考えたケース、飲み物の器についてはコップの傾きとあごの角度から考えたケースでご紹介しています。本記事はご自身で食べている方の、スプーンの大きさと一口量に絞ってご説明します。
※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。
症例
70代の男性です。数年前の脳梗塞で、右手に軽い力の入りにくさが残っていますが、食事はご自身で、左手を使ってとっておられます。奥様と二人暮らしで、食事の形は普通食です。最近、食事の途中でむせることが増え、特に汁物やご飯のときに目立つとのことで、奥様のご心配から当院を受診されました。発熱や痰の増加はなく、体重の大きな変化もみられていませんでした。
ご本人は、「手がうまく使えないので、こぼさないように、たくさんすくって一気に食べている」と話しておられました。
当院での評価
まず、普段どおりの食事の様子を観察しました。使っておられたのは、大きめのスプーンです。こぼさないよう、山盛りにすくい、口の中へ一度に入れていました。口に入れた直後に次のひとさじをすくい始めるため、前の一口を飲み込み終える前に、次の食べ物が口に近づいている場面もありました。むせは、こうした山盛りの一口を入れた直後に出ていました。
口の中や舌・唇の動きには、大きな問題はみられませんでした。同じ食べ物を小さめのスプーンで、一口ずつゆっくり食べていただくと、むせは目立ちませんでした。飲み込む力そのものというより、一口量とペースが影響している可能性が考えられました。
なぜ一口量が多いとむせやすいのか
一口の量が多くなると、口の中で食べ物をまとめ、のどへ送り込む動きの負担が大きくなります。食べ物が口の中に広がったり、飲み込む前にのどへ流れ込んだりしやすくなると考えられています。また、前の一口を飲み込み終える前に次の一口を入れると、のどに食べ物が残った状態のまま、新たな食べ物が加わることになります。
一口量を少なめにすることが、むせの予防に役立つ場合があると、臨床の現場では一般に考えられています。ただし、適切な一口量は、食べ物の形や、ご本人の飲み込みの状態によって異なります。「小さいスプーンにすれば必ず安全になる」とは言えません。一口量が少なすぎると、かえって飲み込みの反応が起きにくくなる場合もあり、個別の評価が必要です。
対処・介入
まず、スプーンを見直しました。ティースプーンほどの大きさで、先が浅いものを試していただきました。右手の力が入りにくいことを踏まえ、握りやすい太めの柄のものも選択肢として検討しました。皿については、縁が立ち上がっていて、すくいやすい形のものを使うことで、山盛りにしなくてもこぼしにくくなるようにしました。
次に、食べ方を練習しました。一さじの量は、スプーンの半分から七割程度を目安にすること。口に入れたら、いったんスプーンを置き、飲み込み終えてから次をすくうこと。汁物と固形物を交互にとり、口の中に食べ物が残っていないかを確かめてから進めること。当院で実際に確認しながら、奥様にも同じポイントをお伝えしました。
さらに、ご本人の「こぼしたくない」というお気持ちにも配慮しました。こぼすことへの不安が、急いでたくさんすくう行動につながっていたためです。食事用のエプロンやテーブルマットなどを活用し、少しこぼしても気にしなくてよい環境を整えるよう、ご家族に提案しました。
経過
数週間後、奥様によると、食事中のむせが減ってきたように感じておられるとのことでした。ご本人も、ゆっくり食べるようにしてから楽になったと感じておられるようでした。
ただし、この時期には、季節の変化や体調の波などもあり、スプーンの変更や食べ方の工夫だけが変化の理由とは言い切れません。引き続き、食事の様子や体調を確認しながら、経過をみています。
ご家庭でできる予防のポイント
ご自身で食事をとっておられる場合でも、一度、食べている様子を観察してみましょう。一口の量が多くないか。前の一口を飲み込む前に、次をすくっていないか。口の中に食べ物が残ったまま、話したり、飲み物をとったりしていないか。こうした点が見つかることがあります。
スプーンは、口の大きさや手の動きに合ったものを選ぶことが大切です。ただし、小さければよいというものではなく、ご本人の状態によって適した大きさは異なります。手の力が入りにくい場合は、柄の太さや形、滑り止めなどの工夫も役立つことがあります。ご自身の判断で食具や一口量を大きく変える前に、歯科医師、言語聴覚士、作業療法士などの専門職に相談してください。むせが続く、発熱や痰が増えた、息苦しさがあるといった場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
おわりに
食事の安全は、食べ物の形だけで決まるものではありません。何ですくうか、どれだけすくうか、どんなペースで食べるか。こうした日常の小さな要素が、むせやすさに関わることがあります。ご本人の「こぼしたくない」「早く食べ終えたい」という気持ちの背景にも目を向けながら、その人に合った食べ方を一緒に探していくことが大切です。
当院のワンポイント
むせが気になるときは、食べ物の形だけでなく、スプーンの大きさと一口の量にも目を向けてみてください。飲み込み終えてから次の一口を。合う大きさは人によって違いますので、迷ったらご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。