「うがいでむせるようになった」― 口をゆすぐときの水の扱い
歯みがきのあと、水を口に含んでうがいをするとき、むせるようになった。食事ではそれほどむせないのに、うがいのときだけ咳き込む。そのような相談をいただくことがあります。うがいは、口の中に入れた水をコントロールする動作です。食事とは違う難しさがあり、見落とされやすい場面でもあります。今回は、うがいの場面に着目した症例をご紹介します。
なお、唇や舌など「口の働き」の低下については「口の働き」から考えたケース、お口の清潔の保ち方については歯周病と口腔内細菌から考えたケースでご紹介しています。本記事はうがいの場面で、口の中の水をどう扱うかに絞ってご説明します。
※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。
症例
80代の女性です。数年前に脳梗塞を経験しており、現在はご自宅で娘さんの支援を受けながら生活しておられます。食事は普通の食事を召し上がっていますが、時間はややかかります。娘さんによると、最近、歯みがきのあとにコップの水でうがいをすると、そのたびに強く咳き込むようになったとのことでした。
ご本人は、うがいがつらいため、歯みがきの回数が減ってきていました。お口の中の汚れが気になるというご相談で、当院を受診されました。発熱や食事量の低下は、その時点ではみられていませんでした。
当院での評価
お口の中を確認したところ、歯の周りや舌の上に汚れが残りやすい状態でした。義歯の適合には大きな問題はありませんでしたが、唇や頬の動きがやや弱く、口の中に水をためておく力が十分でない様子でした。
ご家庭でのうがいの様子を、実際に再現していただきました。コップに水をたっぷり入れ、上を向いて口に含む。そのまま頬をふくらませてブクブクとゆすぐ。その途中で、水の一部がのどのほうへ流れてしまい、むせている様子がありました。
うがいが難しくなる理由
うがいは、水を口の中にためる、頬や舌を動かしてゆすぐ、吐き出す、という一連の動作です。口の中に水をためておくには、唇をしっかり閉じ、舌とのどの動きで水がのどへ流れ込まないよう保つ必要があります。また、上を向いたり、息を止めたりする姿勢や呼吸のタイミングも関わります。
口の動きや、飲み込みに関わる機能が低下してくると、食事は問題なくとれていても、うがいのような「水を口の中で扱う」動作が難しくなることがあります。水は、食べ物に比べてさらさらしているため、のどへ流れ込みやすいからです。
対処・介入
まず、うがいの方法を見直しました。コップの水は少量とし、一度に口に含む量を減らしました。顔は上を向かず、軽く前に傾け、口を閉じる意識を持っていただきました。ブクブクと強くゆすぐのではなく、軽くゆすいで、そのまま前かがみになってシンクに吐き出す方法を練習しました。
次に、水を使わない口腔ケアの方法を併用することにしました。歯ブラシで汚れを落としたあと、口の中に水を含まず、湿らせたガーゼやスポンジブラシ、口腔ケア用のウェットシートなどで、汚れを拭き取る方法です。口の中の乾燥が気になる場合は、保湿用のジェルを使うこともお伝えしました。
口の動きを保つため、唇を閉じる、頬をふくらませる、舌を動かすなどの簡単な運動も、無理のない範囲で行っていただきました。うがいが難しい状態が続く場合は、歯科医師や言語聴覚士などの専門職に相談しながら、方法を調整していく必要があります。
経過
その後の数週間で、娘さんによると、うがいでむせる回数が減り、歯みがきを嫌がらなくなったとのことでした。お口の中の汚れも、以前より少なくなってきていると感じています。
ただし、この時期には、うがいの方法だけでなく、口腔ケアの方法や回数、ご本人の体調や生活の様子も変わっており、うがいの工夫だけが変化の理由とは言い切れません。引き続き、お口の状態とむせの様子を確認しながら、経過をみています。
ご家庭でできる予防のポイント
うがいでむせるのは、年齢のせいや、気のせいではないことがあります。「食事ではむせないから大丈夫」と考えず、うがいの様子にも目を向けてみてください。うがいのたびにむせる、水を口に含むのをいやがる、口の端から水がこぼれる、といった様子があれば、口の機能が変化しているサインかもしれません。
うがいが難しいときは、水の量を減らす、顔を少し前に傾ける、無理にブクブクと強くゆすがない、といった工夫が役立つことがあります。水を使わずに、ガーゼやスポンジブラシ、ウェットシートなどで汚れを拭き取る方法もあります。ただし、口の状態や飲み込みの力は人によって異なります。具体的な方法は、歯科医師や言語聴覚士にご相談ください。
また、むせが続く、発熱や痰が増える、食事量が減るといった場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
おわりに
うがいは、毎日の生活の中のささやかな動作ですが、口の機能を映す場面でもあります。「うがいでむせる」という変化に早めに気づき、方法を見直すことが、お口を清潔に保ち、安心して毎日を過ごすための第一歩になるかもしれません。
当院のワンポイント
うがいでむせたら、「水の量を減らす」「顔を前に傾ける」「強くゆすがない」。それでも難しいときは、水を使わない口腔ケアに切り替えて、専門職にご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。