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症例紹介

冷たい飲み物でむせる ― 飲み物・食べ物の温度を見直す

食事の支援では、食べ物の形やとろみの濃さが注目されがちですが、「飲み物や食べ物の温度」も、食べやすさに関わる要素の一つです。今回は、冷たい飲み物でむせることが増えていた方に、温度の工夫を取り入れた症例をご紹介します。

なお、コップの傾きやあごの角度についてはお茶を飲むときだけむせるケース、一口量についてはスプーンの大きさと一口量のケース、とろみの濃さについてはとろみの濃さのケースでご紹介しています。本記事は飲み物・食べ物の「温度」に絞ってご説明します。

※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。

症例

80代の男性です。奥様と二人暮らしで、食事は普通食、飲み物には特にとろみをつけていません。数か月前から、冷蔵庫から出したばかりの麦茶や水を飲むときに、むせることが増えました。温かいお茶や味噌汁では、むせることはあまりないとのことです。

奥様は、「夏場は冷たい飲み物ばかり飲みたがるが、飲むたびに咳き込んでしまう」と心配され、当院に相談に来られました。ご本人は、「冷たいほうがおいしい。熱いのは苦手だ」と話しておられます。

当院での評価

まず、普段どおりの飲み方を拝見しました。冷えた麦茶を、コップから勢いよく一気に飲む様子がみられ、数口目でむせこむ場面がありました。一方、常温に近い飲み物を、少量ずつゆっくり飲んでいただくと、むせは目立ちませんでした。

口の中や舌の動き、唇の閉じ方には、大きな問題はみられませんでした。ただし、むせの原因は一つとは限りません。冷たさだけでなく、飲む量やスピード、姿勢など、いくつかの要素が重なっている可能性があります。当院での限られた場面の観察であり、温度だけが原因だとは断定できません。

飲み物や食べ物の温度は飲み込みに関係するのか

温度が飲み込みにどう影響するかについては、研究が行われていますが、結果は一様ではありません。冷たい刺激が飲み込みの反応を促すと考えられている場合もあれば、冷たさや熱さによって口の中の感覚や動きが変わり、飲み込みにくくなる場合もあるとされています。個人差が大きく、「冷たいものは必ず危ない」「温かいものなら必ず安全」とまでは言えません。

また、極端に熱い飲み物は、やけどの危険もあります。口の中の感覚が鈍くなっている方は、熱さに気づきにくいことがあるため、注意が必要です。温度は、あくまで食べやすさを考える際の一つの観点として捉えていただければと思います。

対処・介入

まず、飲み方を見直しました。コップに入れる量を少なめにし、一口の量を減らして、ゆっくり飲むようにお願いしました。飲み込んだことを確認してから、次の一口を飲むことも伝えました。

次に、温度を調整しました。冷蔵庫から出したばかりの飲み物は、少し置いて冷たさをやわらげたり、ご本人が飲みやすいと感じる温度を一緒に探したりしました。ご本人の「冷たいほうがおいしい」というお気持ちを尊重し、極端に冷たいものを避けつつ、好みに近い温度を探す形にしました。

さらに、座る姿勢が崩れていないか、顎が上がっていないかも確認しました。温度の工夫だけでなく、姿勢や飲むスピードもあわせて整えることを大切にしました。

経過

数週間後、奥様からは、むせる回数が減ったように感じるとのお話がありました。ご本人も、ゆっくり飲むようにしてから楽になったと感じておられるようです。

ただし、この時期には季節の変化もあり、温度の工夫だけが変化の理由とは言い切れません。飲む量やスピード、姿勢の見直しも同時に行っていますので、どの工夫がどの程度効いたのかは分かりません。引き続き、様子をみています。

ご家庭でできる予防のポイント

飲み物や食べ物を口にするときのご本人の様子を、一度観察してみましょう。冷たいものや熱いものでむせるか、一気に飲んでいないか、飲むたびに姿勢が崩れていないか。こうした点が見つかることがあります。

一口の量を少なめにして、ゆっくり飲むことは、どなたにも取り入れやすい工夫です。ただし、合う温度や量は人によって異なります。熱すぎる飲み物は、やけどの危険もあります。ご自身やご家族の判断だけで無理に変えず、むせが続くとき、食事や水分の量が減っているとき、発熱や痰の増加がみられるときは、早めに歯科や主治医へ相談してください。

おわりに

飲み込みの安全は、食べ物の形だけで決まるものではありません。温度、量、スピード、姿勢といった日常の小さな要素が、重なり合って関わっていると考えられています。ご本人の好みを大切にしながら、安心して口にできる方法を一緒に探していくことが大切です。

当院のワンポイント

冷たい飲み物でむせるときは、温度だけでなく、一口の量とスピードにも目を向けてみてください。合う方法は人によって違いますので、迷ったらご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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