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症例紹介

汁物の具と汁を一緒にすすって、むせていた ― 食べ方の見直し

お味噌汁やスープは、毎日の食卓に欠かせない一品です。ところが、汁物のときだけむせるという方は少なくありません。汁物は、さらさらした「汁」と、形のある「具」が口の中に同時に入るため、飲み込みにとって難しい食べ物になることがあります。今回は、具だくさんの汁物をお椀から直接すすっていて、むせが目立っていた方の症例をご紹介します。

なお、ご自身で食べる方のスプーンの大きさと一口量については一口量と食具から考えたケース、コップで飲むときの姿勢についてはコップの傾きとあごの角度から考えたケース、とろみについてはとろみの濃さから考えたケースでご紹介しています。本記事は汁と具が一緒に口に入る「汁物」の食べ方に絞ってご説明します。

※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。

症例

80代の女性です。ご主人を亡くされ、一人暮らしをしておられます。近くに住む娘さんが週に数回、食事の様子を見に来られています。持病はありますが、日常生活はおおむねご自身でこなしておられます。食事の形は普通食です。最近、娘さんが一緒に食事をした際、お味噌汁を飲むときに大きくむせる場面が何度かみられ、ご心配になって当院を受診されました。

ご本人は、「ご飯やおかずではそれほどむせないのに、お味噌汁だけは、飲むたびにむせる気がする」と話しておられました。普段は、豆腐や野菜、わかめなどがたくさん入ったお味噌汁を、お椀に口をつけて、汁と具を一緒にすすっておられるとのことでした。

当院での評価

まず、普段どおりの食事の様子を拝見しました。お椀を両手で持ち、口につけて傾け、汁と具を一緒に口へ流し込むように食べておられました。具が口に入ってくる瞬間に、汁が先にのどのほうへ流れ込み、その直後にむせる場面がありました。

口の中や舌・唇の動きには、大きな問題はみられませんでした。ご飯やおかずを食べるときには、むせは目立ちませんでした。また、汁と具を別々に、スプーンで少しずつ食べていただくと、むせは減りました。飲み込む力そのものというより、汁物特有の食べ方が影響している可能性が考えられました。ただし、これは当院での限られた場面での観察であり、ほかの要因が全くないとまでは言い切れません。

なぜ汁物でむせやすいのか

汁物では、さらさらした液体と、固形の具という、性質の異なる二つが同時に口に入ります。液体は、固形物に比べて口の中でまとまりにくく、飲み込む準備が整う前にのどへ流れ込みやすいと考えられています。そのため、液体と固形物が混ざった食べ物は、飲み込みの調整が難しくなる場合があると、臨床の現場では一般に説明されています。

また、お椀を傾けてすする動作では、顔が上を向きやすくなります。顎が上がった姿勢では、のどが開きやすく、飲み込む前に食べ物がのどへ流れ込みやすいと考えられています。ただし、これらの影響の大きさは、一人ひとりの飲み込みの状態や、汁物の具の種類・大きさによって異なります。「汁物は危険」「具が入っているから必ずむせる」といったことは言えません。

対処・介入

まず、食べ方を見直しました。お椀から直接すするのではなく、スプーンを使って、少量ずつ口に運んでいただくようにしました。汁だけをひとさじ、具だけをひとさじ、というように、いったん分けて食べることも試しました。顎が上がらないよう、お椀を口元に近づけすぎず、軽く顎を引いた姿勢で食べることも確認しました。

次に、具の大きさや柔らかさを見直しました。大きな具は、一口で飲み込みにくいため、あらかじめ小さく切っておく方法を、娘さんと一緒に検討しました。汁のとろみについては、ご本人の飲み込みの状態に応じて判断が必要になります。当院では、現時点で一律にとろみをつける必要があるとは判断せず、経過を見ながら必要があれば改めて検討することにしました。

さらに、ご本人の「いつものようにお椀から飲みたい」というお気持ちにも配慮しました。食べ方を変えることに抵抗を感じておられたためです。すべてを一度に変えるのではなく、まず一食のうち汁物の場面だけ、スプーンを使ってみるところから始めていただきました。

経過

数週間後、娘さんによると、お味噌汁でむせることが減ってきたように感じておられるとのことでした。ご本人も、慣れてくるとスプーンでも意外と食べやすいと感じておられるようでした。

ただし、この時期には、季節の変化や体調の波などもあり、食べ方の変更だけが変化の理由とは言い切れません。引き続き、食事の様子や体調を確認しながら、経過をみています。

ご家庭でできる予防のポイント

汁物でむせる様子があれば、まず、どのように食べているかを観察してみましょう。お椀から直接すすっていないか。顎が上がっていないか。汁と具を一度に口に入れていないか。こうした点が見つかることがあります。

スプーンで少量ずつ食べる、具を小さく切る、顎を軽く引いて食べる、といった工夫が役立つ場合があります。ただし、合う方法は人によって異なります。ご自身やご家族の判断で、汁物にとろみをつけたり、汁物を控えたりすることは、栄養面や水分摂取の面から、かえって負担になる場合もあります。むせが続くときや、発熱・痰の増加・食事量の低下などが気になるときは、早めに歯科や主治医へ相談してください。

おわりに

汁物は、水分や栄養をとれるだけでなく、食事の楽しみや安心感にもつながる大切な一品です。むせるからといって、すぐにやめてしまうのではなく、食べ方や具の大きさを工夫することで、続けられる場合があります。ご本人のこれまでの食習慣やお気持ちを大切にしながら、無理のない方法を一緒に探していくことが重要だと考えています。

当院のワンポイント

汁物でむせるときは、お椀から直接すすらず、スプーンで少しずつ。汁と具を分けて食べる方法もあります。合う方法は人によって違いますので、迷ったらご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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