とろみをつけているのに肺炎を繰り返す ― 飲み物のとろみと、口の中の環境を合わせて見直す
「飲み物にはとろみをつけているのに、肺炎で入院を繰り返しています」。ご家族から、こうしたご相談を受けることがあります。飲み込みに不安がある方の飲み物にとろみをつけることは、誤嚥を減らすための工夫として広く行われています。しかし、とろみをつければ肺炎のリスクがなくなるとは限りません。今回は、とろみをつけていても肺炎を繰り返した方の症例をご紹介します。
なお、とろみの濃さが日によって変わっていた方の例はとろみの濃さのケース、お薬を飲むときのむせは服薬時のむせのケース、パーキンソン病と飲み込みの関係はパーキンソン病のケースでご紹介しています。本記事はとろみをつけていても肺炎を繰り返すときに、口の中の環境もあわせて見直す視点に絞ってご説明します。
※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。
症例
70代の男性です。数年前にパーキンソン病と診断され、ご自宅で、ご家族の介護を受けながら暮らしています。飲み込みの評価を受けたところ、薄い飲み物でむせやすいと言われ、飲み物にとろみ剤を使うようになりました。この1年で、発熱を伴う肺炎で2回入院されています。
ご家族は、「とろみをつけているのに、なぜ肺炎になるのか」と悩んでおられました。訪問看護師から、「口の中の状態を歯科で確認してもらってはどうか」と勧められ、当院が訪問することになりました。
当院での評価
口の中を拝見すると、唾液が口の中にたまりやすく、口の中全体に歯垢と舌の汚れが目立ちました。上あごや頬の内側に、食べ物の残りが付着していました。歯ぐきには赤みがあり、出血しやすい状態でした。口を閉じる力が弱く、普段から口が少し開いており、よだれが出ることもありました。
飲み物の準備の様子も、ご家族に見せていただきました。とろみ剤は、目分量で加えておられ、その日の準備の仕方によって、とろみの具合が違う様子でした。また、薬を飲む際には、とろみのない水で飲んでおられました。
なお、今回の肺炎が、飲み物の誤嚥によるものなのか、唾液や口の中の細菌によるものなのか、食べ物の誤嚥によるものなのか、別の要因によるものなのかは、当院の観察だけでは判断できません。とろみの程度の判断や、飲み込みの評価は、主治医や嚥下の評価ができる医療機関、言語聴覚士が行うものです。
とろみと肺炎の関係について
とろみと肺炎の関係については、研究があります(Robbins ら、Annals of Internal Medicine誌、2008年)。認知症やパーキンソン病があり、検査で薄い液体を誤嚥することが確認された50歳以上の515名を、顎を引いて飲む方法、少しとろみのある液体、強いとろみのある液体の3つの方法に分けて、肺炎の発生を比べた無作為化試験です。3か月間の肺炎の発生は、全体で約11%で、顎を引く群が9.8%、とろみのある液体の2群を合わせると11.6%でした。この差は、統計的に意味のあるものではなく、方法による優劣は結論づけられていません。
ただし、この結果は慎重に受け止める必要があります。この試験には、何も対処をしない群が含まれておらず、とろみに肺炎を減らす効果があるかどうかは、この試験だけでは分かりません。観察期間は3か月で、群の間の差の推定には幅があり、介護者には、どの方法かが分かっていました。また、報告では、とろみのある液体の群で、脱水、尿路感染、発熱がやや多い傾向が示されています。一方で、対象は認知症やパーキンソン病の方であり、ほかの原因で飲み込みが難しい方に、そのまま当てはまるとは限りません。
したがって、とろみをつけることが無意味だと言うことはできません。ただ、とろみだけで肺炎を防げるとは限らず、水分の確保や、口の中の環境、ほかの要因とあわせて考える必要があると考えられます。とろみの要否や濃さは、ご本人の状態に合わせて、専門職が判断するものです。
対処・介入
まず、訪問看護師、主治医、言語聴覚士と情報を共有しました。とろみの濃さや、薬の飲み方、食事の形態は、主治医や言語聴覚士が決めるものであり、当院が単独で決めるものではありません。とろみの準備が目分量であること、薬を水で飲んでいることは、気づいた点として、ご家族の了解を得て、主治医と言語聴覚士にお伝えしました。
当院では、定期的に訪問して、歯垢や舌の汚れ、上あごや頬に残った食べ物を取り除き、歯ぐきの状態を確認しました。口が開きやすく乾燥しやすいため、保湿にも配慮しました。
ご家族には、毎日の口のケアの方法をお伝えしました。食後に、口の中に食べ物が残っていないかを確認すること、舌や歯ぐきの汚れを優しく取り除くことなどです。ケアの際は、むせや誤嚥に注意することが大切で、姿勢や水分の量など具体的な方法は、看護師や言語聴覚士の指導に従うようお伝えしました。
経過
その後、言語聴覚士の助言をもとに、とろみの準備の方法が見直され、口のケアも毎日続けられています。口の中の汚れは減り、歯ぐきの赤みも落ち着いてきました。発熱の回数は、現時点では増えていません。
ただし、観察期間は短く、変化の理由が口のケアやとろみの見直しによるものとは言い切れません。季節や体調の波、病気の進行の程度、薬の調整などの要因も影響している可能性があります。肺炎を繰り返さないかどうかは、今後も経過をみていく必要があります。
ご家庭やご家族ができる予防のポイント
とろみをつけている場合でも、準備のたびに濃さがそろっているか、専門職に教えていただいた方法で作れているかを、確認してみてください。飲み物以外にも、薬の飲み方や、口の中に食べ物が残っていないかなど、気になる点は、主治医や言語聴覚士に相談してください。
口のケアの方法は、ご本人の状態によって異なるため、自己判断で強い力で磨いたり、市販の洗浄剤を使ったりせず、歯科や看護師の指導を受けてください。食事中のむせが続く、痰が増える、声がかすれる、発熱がある場合は、早めに歯科や主治医へ相談してください。
おわりに
飲み物にとろみをつけることは、誤嚥を減らすための大切な工夫ですが、それだけで肺炎のリスクがなくなるとは限りません。とろみの準備、薬の飲み方、口の中の環境など、日々の暮らしの中にある要因をあわせて見直し、主治医、言語聴覚士、看護師、歯科、ご家族が情報を共有しながら、無理のない形で続けていくことが大切です。
当院のワンポイント
とろみは、毎回同じ濃さで準備することが大切です。気になる様子があれば、早めにご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。