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実例

オーラルフレイルから始まった誤嚥性肺炎 ― 「食べにくくなった」は身体からの大切なサイン

これまで、誤嚥性肺炎のさまざまな原因についてご紹介してきました。脳卒中後遺症パーキンソン病認知症サルコペニア口腔機能低下症糖尿病COPDGERD薬剤性嚥下障害介護施設在宅療養くり返すケース胃ろう造設後腸肺軸と、多角的に取り上げてきました。今回は、近年注目されている「オーラルフレイル(Oral Frailty)」をテーマにした症例をご紹介します。

オーラルフレイルとは、口の機能が少しずつ衰え始めた状態を指します。「食べこぼしが増えた」「硬いものを避けるようになった」「滑舌が悪くなった」といった小さな変化は、単なる加齢現象ではなく、将来的な誤嚥性肺炎や低栄養、要介護状態につながる重要なサインである可能性があります。本症例は、実際によく経験する経過をもとに構成した典型的な複合症例です。

症例:P様(78歳・女性・仮名)

大きな病気はなく、趣味の園芸を楽しみながらご主人と二人暮らしをされていました。ここ2年ほど、次のような変化がみられていました。

  • 食事中に食べこぼすことが増えた
  • 硬い肉やたくあんを食べなくなった
  • 「パ・タ・カ・ラ」が言いにくくなった
  • 食事に時間がかかるようになった

ご本人は「年齢のせいだから仕方ない」と考え、特に受診はしていませんでした。しかしその後、38℃台の発熱と咳が出現し、誤嚥性肺炎と診断されました。肺炎は改善しましたが、原因を知りたいというご希望から当院を受診されました。

当院での評価

誤嚥性肺炎の背景を調べるため、口腔機能を中心に総合的な評価を行いました。

口腔機能検査

検査では、舌圧の低下、咀嚼能力の低下、口唇閉鎖力の低下、軽度の口腔乾燥、発音機能の低下が認められました。これらの結果から、オーラルフレイルから口腔機能低下症へ移行しつつある状態と判断しました。

嚥下内視鏡検査(VE)

VEでは、軽度の咽頭残留、水分での喉頭侵入、咳反射の軽度低下が認められました。重度の誤嚥ではありませんでしたが、小さな誤嚥を繰り返していた可能性が考えられました。

嚥下エコー

舌骨運動は保たれていましたが、舌による食塊の送り込みが弱く、嚥下後に少量の残留を認めました。被ばくがなく外来で繰り返し評価できるため、機能改善の経過を確認しながら治療を進めることにしました。

対処・介入

  • 口腔機能訓練:歯科衛生士による舌の運動、口唇体操、頬の運動、発音訓練(パ・タ・カ・ラ体操)を開始しました。ご自宅でも毎日続けられるよう、口腔体操を指導しました。
  • 咀嚼機能の改善:義歯を調整し、しっかり噛める環境を整えました。「噛むこと」は、唾液の分泌や嚥下反射の維持にもつながります。
  • 栄養指導:管理栄養士が、噛みやすさだけでなく、筋肉量を維持できるよう十分なたんぱく質を含む食事を提案しました。
  • 専門的口腔ケア:歯科衛生士による定期的な口腔ケアを開始し、セルフケアの方法も見直しました。

経過

約4か月後の再評価では、舌圧の改善が確認され、嚥下エコーでも食塊の送り込みがスムーズになっていました。食事のしやすさについてもご本人から前向きな変化が聞かれ、その後1年以上、誤嚥性肺炎の再発なく生活されています。

※ 改善の程度には個人差があり、状態や基礎疾患によって経過は異なります。オーラルフレイルは早期に介入することで改善が期待できる一方、放置すると口腔機能低下症や誤嚥性肺炎へ進行する可能性があります。

ご家庭でできる予防のポイント

  • 食べこぼしが増えていないか確認する
  • 硬いものを避けるようになっていないか観察する
  • 「パ・タ・カ・ラ」が言いにくくなっていないか試してみる
  • 毎日の口腔体操を習慣にする
  • 定期的に歯科医院で口腔機能をチェックする

おわりに

オーラルフレイルは、「年齢のせい」と見過ごされやすい小さな変化から始まります。しかし、その小さな変化を放置すると、口腔機能低下症、低栄養、サルコペニア、そして誤嚥性肺炎へとつながる可能性があります。

私たちは、「肺炎になってから治療する」のではなく、「肺炎になる前のサイン」を見つけることが重要だと考えています。オーラルフレイルは、そのサインを早期に教えてくれる大切なメッセージです。歯科医院は口の中を継続的に診る場だからこそ、その変化に気づき、予防へつなげることができます。摂食嚥下障害についてもあわせてご覧ください。

当院のワンポイント

「食べこぼし」は、加齢現象ではなく機能の衰えの始まりかもしれません。「最近、食べにくくなった」「滑舌が悪くなった」「硬いものを避けるようになった」といった小さな変化は、誤嚥性肺炎の予防を考えるうえで重要なサインです。

当院では、口腔機能検査、嚥下内視鏡検査(VE)、嚥下エコーなどを組み合わせ、オーラルフレイルの早期発見と早期の対応に取り組んでいます。「いつまでも、おいしく、安全に食べられること」。それが、誤嚥性肺炎予防の第一歩だと私たちは考えています。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。

※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。

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