胃ろう・経管栄養の方の口腔ケア|口から食べなくても必要な理由と方法
「胃ろうになって口から食べていないのに、歯みがきは必要なのだろうか」「口の中が乾いて、痰のような汚れがこびり付いている」——胃ろうや経鼻胃管などの経管栄養で栄養をとっているご家族について、こうした疑問やお困りごとを抱えている方もいらっしゃると思います。口から食べていなくても、お口の中は乾きやすく、汚れやすくなります。経管栄養の方にも、毎日の口腔ケアは大切です。
この記事では、経管栄養の方に口腔ケアが必要な理由と、ご家庭や施設でケアをするときに気をつけたいことを、日本歯科医師会や文部科学省の資料、研究機関の報告をもとに、摂食嚥下障害の診療を主軸とする東京都世田谷区・自由が丘エリアの go-en.デンタルクリニックが整理してご説明します。
口から食べていなくても、口腔ケアが必要な理由
経管栄養とは、口から十分に食べられない方に、胃ろうや鼻から通した管(経鼻胃管)などを使って栄養剤を入れる方法です。食べ物がお口を通らなくても、お口の中では細菌が増えます。そして、その細菌を含んだ唾液や汚れを誤嚥すると、誤嚥性肺炎の原因になることがあります。
食べないと、お口は乾きやすく汚れやすくなります
広島大学の研究者が行っている研究(科研費の研究課題「要介護経管栄養高齢者の経時的な口腔細菌叢変移の解明と適切な口腔ケア間隔の確立」)の概要では、経管栄養の要介護高齢者の口の中には乾燥や汚れがみられることがあり、乾燥が重くなると「剥離上皮膜」と呼ばれる膜状の汚れができ、そのときには肺炎に関係する細菌が多く検出される、と説明されています(出典:KAKEN:科学研究費助成事業データベース(国立情報学研究所)「要介護経管栄養高齢者の経時的な口腔細菌叢変移の解明と適切な口腔ケア間隔の確立」(課題番号24K19948)の研究概要を要約)。
日本歯科医師会のサイト「テーマパーク8020」の歯科訪問診療の解説でも、長期臥床の方や要介護の方は口腔のケアがおろそかになると、歯垢に加えて痰が舌と口蓋(上あご)にこびり付き、細菌数が最大に達する、と説明されています。噛んだり話したりする機会が少ないと、お口が動かず、汚れが流されにくい状態になりやすいのです。お口の乾きそのものについてはドライマウス(口の乾き)で飲み込み・入れ歯はどう変わる?原因と対処でも詳しくご説明しています。
経管栄養だけでは、誤嚥性肺炎は防ぎきれません
文部科学省のサイトに掲載されている「学校における教職員によるたんの吸引等(特定の者対象)研修テキスト(例)」(公益財団法人 日本訪問看護財団 作成・令和2年)の経管栄養の章では、許容できない誤嚥が明らかになった場合に経管栄養が検討されるものの、それだけでは誤嚥性肺炎は防げない、と説明されています。誤嚥性肺炎は食べ物の誤嚥だけでなく、唾液中の細菌の誤嚥や、胃食道逆流による胃の内容物の誤嚥によっても起こるためで、対応策の一つとして、口腔内の細菌を抑えるための口腔ケアが挙げられています。
テーマパーク8020の同じ解説では、肺炎を起こした高齢者の多くは、食事のときにむせるといった症状がなくても、夜間の睡眠中に唾液を気管や肺へ誤嚥している(不顕性誤嚥)ことが分かっている、とも説明されています。むせない誤嚥については不顕性誤嚥(むせない誤嚥)とは?原因と気づきにくいサイン・予防のことをご覧ください。胃ろうの方が誤嚥性肺炎をくり返した経過は、当院の症例紹介(実際によくみられる経過をもとに構成した複合症例で、特定の患者さまの記録ではありません)胃ろうでも誤嚥性肺炎になるのはなぜ? ― 「食べていないから安心」とは言えないケースでもご紹介しています。
お口を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防につながると考えられています。ただし、口腔ケアをすれば肺炎を必ず防げるというものではありません。体の抵抗力や飲み込みの状態など、ほかの要因も関わります。物をのどにつまらせた、急な息切れや呼吸困難があるといったときは、この記事を読み進めずに、すぐに救急車(119番)を呼んでください。迷うときの相談先は、記事の後半でご案内しています。
経管栄養の方の口腔ケアで気をつけたいこと
経管栄養の方は、飲み込む力が弱くなっていることが多く、うがいができない方も少なくありません。ケアの最中に水や汚れをのどへ流し込まないことが、いちばんの注意点です。
時間帯:注入の直後は避け、主治医・訪問看護師と決めましょう
前述の文部科学省の研修テキストでは、注入直後は胃が栄養剤で満たされているため、胃に入ったものが逆流しないよう、急に体を動かしたり緊張させたりしないよう注意する、と説明されています。口腔ケアでは口を開けたり、姿勢を変えたり、歯ブラシの刺激でえずいたりすることがあるため、注入の直後は避けたほうが安心です。何時ごろに行うか、注入とどのくらい間を空けるかは、ご本人の状態によって変わるため、主治医や訪問看護師と相談して決めましょう。
なお、経管栄養の方の口腔ケアを「どのくらいの間隔で行えばよいか」については、前述の広島大学の研究概要でも、口腔ケアを行うタイミングは不明であるとして、適切な間隔を検討する研究が進められているところです。回数は、お口の汚れ方や乾き方を見ながら、歯科医師・歯科衛生士と一緒に決めていくのが現実的です(注入との間隔は、上のとおり主治医や訪問看護師と相談しましょう)。
姿勢:上体を起こし、あごを軽く引きます
テーマパーク8020の要介護者への口腔ケアの解説では、首を前に曲げる(あごを引く)姿勢は口の中に水をためておきやすい姿勢で、汚れた水をのどに落とし込まないための工夫として紹介されています。ベッドの上でケアをするときは、ご本人の状態に合わせて上体を起こし、あごを軽く引いた姿勢をとりましょう。どの程度起こしてよいかは、主治医や訪問看護師に確認してください。
水は少なく、はがした汚れはふき取って回収します
同じ解説では、うがいができない方では、歯ブラシで落とした汚れを誤嚥するおそれがあるため特別な注意が必要で、汚れを回収しないとケアそのものが肺炎の原因になることがある(口腔ケア関連性肺炎)、と説明されています。そのため、水分の多いスポンジや綿棒を使ったり、洗浄のために多くの水や洗浄剤を使ったりしないこと、歯ブラシをこまめにすすぎ、口腔ケア用のウェットティッシュなどで粘膜をふき取りながら進めることが挙げられています。うがいができない方のケアの基本は高齢者の口腔ケアはなぜ大切?誤嚥性肺炎の予防と毎日のケアのコツでもご説明しています。
乾いて固まった汚れは、無理にはがさない
乾いてこびり付いた汚れを無理にこすり取ろうとすると、お口の粘膜を傷つけてしまうことがあります。テーマパーク8020の歯科訪問診療の解説では、長い間歯みがきをしていない場合は歯ぐきがとても弱くなっていることがあり、軟らかい毛の歯ブラシを使い、最初は力を入れすぎたり長時間みがいたりしないよう説明されています。固まった汚れが取れにくいときは、無理をせず歯科にご相談ください。前述の広島大学の研究の途中経過の報告(KAKENの「研究実績の概要」)では、肺炎に関係する細菌が口の中で急に増える前に、保湿による口腔ケアが重要であることが示唆される、とも報告されています(研究は進行中です)。保湿の方法は、お口の状態に合わせて歯科医師・歯科衛生士にご相談ください。
ご家族の判断で、口から食べ物や飲み物を与えないでください
「少しくらいなら」と、ご家族の判断で経管栄養の方に食べ物や飲み物を口から与えることは控えてください。口から食べる練習を始めてよいか、何をどれだけ口にしてよいかは、主治医や評価を行う医師・歯科医師などが判断します。口から食べることを考えるときの確かめ方は胃ろうでも口から食べられる?|経管栄養の方の飲み込みの評価と訪問歯科でまとめています。
毎日のケアの流れ(一例)
ご家庭や施設でのケアの流れを一例としてご紹介します。お口の状態や飲み込みの力によって適した方法は変わるため、実際の方法は歯科医師・歯科衛生士がお口の状態を見たうえでお伝えします。
- 準備をする:注入の直後を避け、上体を起こしてあごを軽く引いた姿勢にします。軟らかい歯ブラシ、スポンジブラシ、コップの水、口腔ケア用のウェットティッシュやガーゼ、タオルを手元にそろえます。
- お口の中を見る:舌や上あご、頬の内側に、乾いた汚れや痰がこびり付いていないか、出血や傷、ぐらぐらする歯がないかを確かめます。
- 歯をみがく:軟らかい歯ブラシで、力を入れすぎずにみがきます。歯ブラシはこまめにコップの水ですすぎ、きれいな状態で口に戻します。
- 粘膜・舌の汚れをとる:スポンジブラシやガーゼで、やさしくぬぐいます。スポンジは水分が多いままだとのどに水が落ちやすいため、よく絞ってから使います。
- 汚れをふき取って回収する:落とした汚れがのどに流れないよう、ウェットティッシュやガーゼでふき取ります。
- ケアのあとも様子を見る:ケアのあとにむせ込みや息苦しさ、痰の増え方に変化がないかを見ておき、気になることがあれば記録して、歯科や訪問看護師に伝えましょう。ケアの最中やあとに、物をのどにつまらせた様子や急な息切れ・呼吸困難があるときは、記録を待たずにすぐ救急車(119番)を呼んでください。
入れ歯をお持ちの方で、経管栄養になってから長く外したままになっている場合は、入れ歯の保管方法や、お口の中の状態もあわせて歯科で確認しておくと安心です。
こんなときは、歯科や主治医にご相談ください
歯科に相談したいこと
- 舌や上あごの汚れが固まっていて、取れにくい
- 口を開けてもらえない、歯ブラシを噛んでしまうなど、ケアが難しい
- ケアのたびに出血する、口の中に傷や口内炎がある
- ぐらぐらする歯や、欠けた歯がある
- 口のにおいが強くなった
- 入れ歯を長く使っておらず、どうしたらよいか分からない
なお、口の中に痰がたまる場合の吸引や、胃ろう・チューブそのもの(抜けた、周りが赤く腫れているなど)、栄養剤のことは、主治医や訪問看護師、胃ろうを管理している医療機関にご相談ください。チューブが抜けたときは、次の受診や訪問を待たずに、すぐに胃ろうを管理している医療機関や訪問看護師に連絡してください。
救急車(119番)をすぐ呼ぶとき・迷うときの相談先
物をのどにつまらせた、急な息切れや呼吸困難があるといったときは、様子を見ずにすぐに救急車(119番)を呼んでください。消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」では、高齢者の「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」として、物をのどにつまらせた、急な息切れ・呼吸困難、意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている)、顔半分が動きにくい・しびれる、ろれつがまわりにくい、突然の高熱などが挙げられ、そのほか「いつもと違う場合、様子がおかしい場合」も挙げられています。同じリーフレットでは、高齢者は自覚症状が出にくい場合もあるとして注意が呼びかけられています。
救急車を呼ぶか迷うとき、夜間や休日にどこを受診すればよいか分からないときは、東京都にお住まいの方は、東京消防庁救急相談センター(#7119)に相談できます(24時間・365日。自動音声のあと「2」を押すと救急相談、「1」を押すと医療機関の案内につながります。ボタンを押さずに待つと医療機関の案内(「1」)につながるため、救急相談のときは「2」を押してください)。東京都以外にお住まいの方は、お住まいの地域の救急相談窓口をご確認ください。急ぎではないものの、痰が増えた・微熱が続くなど体調が気になるときは、まずかかりつけ医(主治医)にご相談ください(上に挙げたような症状があるときは、ためらわず119番を呼んでください)。
歯科でお手伝いできること
当院は摂食嚥下障害の診療を主軸としています。経管栄養の方のご相談では、お口の汚れや乾燥の様子、歯や入れ歯の状態、唾液の飲み込み方などを確認し、専門的な口腔ケアを行うとともに、ご家族や介護される方が毎日行うケアの方法をお伝えします。確かめた内容は、必要に応じて主治医や訪問看護師、ケアマネジャー、施設のご担当者さまと共有します。胃ろうの造設・交換・管理、栄養剤の調整、胃ろうをやめるかどうかの判断は医科(主治医)の領域で、当院は行いません。まずは保険診療でのご相談が可能です(保険の摂食嚥下診療)。なお、診療の効果や改善のあらわれ方には個人差があり、結果を保証するものではありません。
通院が難しい方には、訪問診療という方法があります。健康保険による訪問診療は世田谷区を中心とした近隣エリア(診療内容に応じた保険点数のほか、交通費等が別途かかる場合があります)、自由診療(自費)による訪問診療は東京都・神奈川県の全域が対応の目安です。ご自身で通院できる方は、外来(完全予約制)でも承っています。
自由診療(自費)は公的医療保険が適用されず、全額自己負担となります。自費の嚥下診療(訪問)は、ご自宅・施設へ伺って摂食嚥下の評価、嚥下訓練とご本人・ご家族への指導、お口のケアを行うもので、初回22,000円(税込)・2回目以降16,500円(税込)、標準的な4〜6回の場合、期間はおおよそ3か月程度・総額71,500円〜104,500円(税込)程度が目安です(別途、交通費の実費をいただきます)。嚥下健診(デンタルドック)は、飲み込み・お口の状態を確認し、結果にもとづくご説明・今後に向けたアドバイスを行う健診で、16,500円(税込)・当日1回で完了し、回数の目安は1回です(ご自宅・施設へ伺って受けられる場合は、別途 交通費の実費をいただくことがあります)。評価や訓練の際にまれにむせ込み・一時的な疲労・不快感が生じることがあり、全身の状態によっては行える内容が制限される場合があります。期間・回数は標準的な目安で、飲み込みの状態やご希望により前後し、体調の変化などにより計画を変更・中止する場合があります。診療の効果や改善の程度には個人差があり、結果を保証するものではありません。ご不明な点はお電話(03-6459-7970)またはご相談フォームからお問い合わせください。詳しくは料金についてのページもご覧ください。
まずはご相談ください
「口から食べていないから、お口のことは後回しでよい」と思われがちですが、経管栄養の方も、お口が乾きやすく、汚れがたまりやすい状態にあります。一方で、うがいができない方のケアには、水や汚れをのどへ流さない工夫が欠かせず、ご家族だけで続けるのは不安なことも多いと思います。「どんな汚れがついているか」「ケアのときに困っていること」「注入の時間帯」を伝えていただくだけでも、ケアの方法を考える手がかりになります。当院は、誤嚥性肺炎の患者さんに長年向き合ってきた歯科医が担当し、一般社団法人 日本誤嚥性肺炎予防協会に加盟しています。東京都世田谷区・自由が丘エリアで、胃ろう・経管栄養のご家族のお口のケアにご不安があるときは、ご本人・ご家族はもちろん、ケアマネジャーさま・施設のご担当者さまからも、まずはご相談ください。


