日中ぼんやりして、食事中にうとうとする ― 薬の影響と誤嚥・肺炎のリスク
誤嚥のリスクというと、飲み込む力や食べ方の問題を考えがちです。しかし、飲み込みの安全は、「起きていて、意識がはっきりしていること」にも支えられています。眠気やぼんやりした状態が強いと、食べ物の取り込みや飲み込みのタイミングがずれ、誤嚥しやすくなると考えられています。今回は、新しい薬が加わった後に日中の様子が変わり、食事中の様子から薬の影響を考えるきっかけになった方の症例をご紹介します。
なお、薬の副作用による嚥下障害と薬の見直しについては薬剤性の嚥下障害のケース、薬とは関係なく食事の途中で眠くなる場合は覚醒状態のケース、錠剤を飲み込む動作については服薬時の嚥下のケースでご紹介しています。本記事は新しい薬が加わった後の、日中の眠気と食事中の変化に絞ってご説明します。
※ 本症例は、実際の複数の症例をもとに再構成した架空の複合症例です。特定の個人を指すものではありません。
症例
80代の男性です。奥様と二人暮らしで、軽度の認知症があります。食事は普通食を自分で食べておられ、これまで食事中のむせはほとんどありませんでした。2週間ほど前から、夜に落ち着かない様子がみられたため、主治医から新しい薬が処方されたとのことです。
その後、日中にぼんやりしている時間が増え、食事中にうとうとして手が止まる、口に入れた食べ物をなかなか飲み込まない、食後に咳が出るといった様子がみられるようになりました。奥様は、「食事の途中で寝てしまいそうで、無理に食べさせてよいのか分からない」と話しておられます。
当院での評価
食事の様子を拝見すると、食事の途中で目が閉じそうになり、口に食べ物を入れたまま動きが止まる場面がありました。声をかけると目を開けて飲み込みますが、食後に咳払いが続き、声がやや湿ったように聞こえました。口の中は乾燥しており、舌に汚れが付着していました。
今回、強く気になったのは、これらの様子が「2週間ほど前の薬の追加」の後から始まっている点です。ただし、薬の影響によるものか、認知症の進行によるものか、体調不良や感染症などが関わっているのかは、当院の観察だけでは判断できません。そのため、薬の評価と全身の評価が必要であると考え、主治医への相談をお勧めしました。
なぜ薬が誤嚥や肺炎のリスクと関係することがあるのか
睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬など、眠気や意識の低下を起こしうる薬を使っている方では、食事中に覚醒を保てなかったり、飲み込みのタイミングがずれたりして、誤嚥のリスクが高まる可能性があると、臨床の現場では一般に考えられています。また、薬の種類によっては、唾液の分泌を減らして口の中を乾燥させたり、逆によだれが増えたりすることがあり、飲み込みに影響することも指摘されています。
オランダの高齢者を対象とした観察研究(Knol らによる2008年の報告、J Am Geriatr Soc誌)では、抗精神病薬を使っている方は、使っていない方に比べて、肺炎で入院するリスクが約60%高く、特に処方が始まった最初の1週間でリスクが高かったと報告されています。ただし、これは観察研究であり、薬が肺炎の原因だと断定できるわけではありません。薬が処方される背景にある病気や、全身状態が、肺炎のリスクに関わっている可能性も否定できません。また、そのメカニズムは明らかになっておらず、すべての薬や、すべての方にあてはまるわけでもありません。
薬は、症状を和らげるために必要な場合も多く、自己判断で中止したり、量を変えたりすることは危険です。必要な薬と、飲み込みへの影響とのバランスを、主治医や薬剤師が全身の状態をふまえて判断することが大切です。
対処・介入
まず、主治医と薬剤師への情報共有をお願いしました。お薬手帳を持参して受診し、薬が追加された時期と、日中のぼんやりや食事中のうとうとが始まった時期、食後の咳や声の変化を伝えるよう、奥様にお話ししました。当院からも、観察した内容を文書にまとめて、主治医へお送りしました。薬を変更するかどうかは、主治医が判断します。当院が薬の内容を単独で変更することはありません。
次に、評価を待つあいだにできる工夫をお伝えしました。食事は、できるだけ目がはっきり覚めているときに行うこと。眠そうなときは、無理に食べさせず、時間をずらすこと。食事中に眠くなったら、口の中のものを飲み込んだことを確認してから中断すること。食べ物は、ご本人が目を開けて、自分で飲み込む様子を確認しながら、少量ずつ進めること。ただし、これらは一般的な工夫であり、実際の対応は、主治医やリハビリの専門職と相談して決める必要があります。
さらに、口の中を清潔に保つことを重ねてお願いしました。意識がぼんやりしているときに、少量の唾液や食べ物が気管に入っても気づきにくいため、口の中の細菌を減らしておくことが大切だと考えられているためです。食後の歯みがきや舌の清掃に加えて、口の乾燥には、保湿剤の使用を提案しました。
経過
その後、主治医が薬の内容を見直され、薬の調整が行われました。調整の後、日中の覚醒は徐々に改善し、食事中のうとうとも減ってきたと、奥様は話しておられます。食後の咳も、以前より少なくなりました。
ただし、薬の調整のほかにも、夜の過ごし方の工夫や、季節の変化、体調の回復など、さまざまな要因が重なっている可能性があり、薬の調整だけが変化の理由とは言い切れません。引き続き、日中の覚醒、食事中の様子、食後の咳や発熱を見守っています。
ご家庭でできる予防のポイント
新しい薬が追加されたときや、薬の量が変わったときは、その後の様子に注意してください。日中のぼんやりが増えた、食事中にうとうとする、食べ物をためて飲み込まない、よだれが増えた、口が乾く、食後に咳や声の変化がある。こうした様子がみられたときは、薬の影響の可能性もあるため、できるだけ早く主治医や薬剤師へ相談してください。
薬は、自己判断で中止したり、減らしたりしないでください。お薬手帳を活用し、服用している薬を、かかりつけの歯科医師にも伝えておくと、口の中の乾燥などの変化に気づきやすくなります。発熱や痰の増加、食事量の低下がみられるときは、早めに歯科や主治医へ相談してください。
おわりに
飲み込みの安全は、のどの動きだけでなく、起きていて意識がはっきりしていることにも支えられています。食事中の様子の変化に気づいたとき、薬の影響の可能性も含めて考えることは、肺炎の予防にもつながります。ご本人とご家族、そして医師、薬剤師、歯科医師などの専門職が、情報を共有していくことが大切だと考えています。
当院のワンポイント
薬が変わった後の、日中の様子や食事中の変化にご注目ください。気になる変化があれば、自己判断で薬を変えず、早めにご相談ください。通院が可能な方は外来(完全予約制)、通院が難しい方は訪問診療で対応します。ケアマネジャーさま・施設さまからのご相談はこちらをご覧ください。
※ 本記事は特定の患者様の症例ではなく、個人が特定されないよう構成した典型的な複合症例です。記載した経過は複合症例に基づく一般的な例であり、治療経過には個人差があります。本記事の内容が特定の効果・予後を保証するものではありません。