高齢者の低栄養と噛む・飲み込む力の関係|体重減少や食べる量の変化に気づく目安
「最近、食べる量が減ってきた」「顔つきがほっそりして、体重も落ちてきた気がする」——高齢のご家族について、こうしたご心配をうかがうことがあります。食べる量が減る理由はさまざまですが、その一つに、噛む力や飲み込む力の衰えが関わっていることがあります。
この記事では、高齢の方の低栄養と、噛む・飲み込むといったお口の働きとの関係、低栄養に気づくための目安、ご家庭でできる食事の工夫を、公的機関や大学の資料をもとに、摂食嚥下障害の診療を主軸とする東京都世田谷区・自由が丘エリアの go-en.デンタルクリニックが整理してご説明します。なお、体重が減る原因はお口や飲み込みの問題だけではなく、病気が隠れていることもあります。短い期間で体重が大きく減った、食事も水分もほとんどとれない、ぐったりしている、発熱が続くといったときは、お口の問題として様子を見ずに、早めに主治医などの医療機関を受診してください。
低栄養とは?高齢の方に起こりやすい理由
低栄養は「フレイル」の重要な危険因子です
食事からとる栄養が体に必要な量に届かない状態が続くと、体重が減り、筋力も落ちていきます。東京都西多摩保健所が介護職員等向けに作成した「フレイル予防のための食のサポートブック」(平成29年12月)では、低栄養状態はフレイルの重要な危険因子であるとされています。フレイルとは、加齢とともに筋力や認知機能などの心身の活力が低下し、生活機能障害や要介護状態などの危険性が高くなった状態のことで、同じ資料では、適切な介入・支援により生活機能の維持向上が可能な状態であるとも説明されています。
加齢とともに「食べること」に関わる体の働きも変わります
同じ資料では、加齢に伴って起こる食に関する身体機能の変化として、次のような点などが挙げられています。
- かむ力が低下
- 味覚・嗅覚が鈍化
- 唾液の分泌量減少
- のどの渇きを感じにくい
- 飲み込む力が低下
- 食欲低下
このうち「かむ力」「唾液」「飲み込む力」は、お口とのどの働きそのものです。食べる量が減ってきたときは、食欲や体調だけでなく、「噛めているか」「飲み込めているか」にも目を向けてみてください。
噛む・飲み込む力と低栄養の「悪循環」
噛みにくい・飲み込みにくいと、食べる物が偏っていきます
東京医科歯科大学(2024年10月に東京工業大学と統合し、現在は東京科学大学) 臨床栄養部が発行した資料「食彩たより」(令和3年8月)では、お口の機能の衰え(オーラルフレイル)について、「噛みにくい」「飲み込みにくい」ことが食品の偏りや食べる楽しみの低下につながり、食欲低下から低栄養に至る流れが示されています。
同じ資料では、咀嚼(噛むこと)に問題があると、肉類や野菜類など噛みにくい食品を避けるため、たんぱく質やビタミンの摂取量が低下すること、さらにたんぱく質量の低下はエネルギー不足につながることも説明されています。「やわらかい物ばかり選ぶようになった」「肉を残すようになった」という変化は、好みが変わっただけでなく、噛みにくさのサインであることもあります。
栄養が足りなくなると、お口の働きもさらに落ちやすくなります
同じ資料では、噛みにくい食品が増えると食べることがおっくうになって食事回数が減る傾向があり、摂取量の低下につながること、するとエネルギー量や栄養素が不足して、さらに口腔機能が低下し、悪循環に陥る可能性があることにも触れられています。
同じ資料には、日本歯科医師会の資料をもとに、「噛めない」→「やわらかいものを食べる」→「噛む機能の低下」→「口の機能低下」とめぐる図も載っています。食べる量が減ることと、お口の働きが衰えることは、お互いに影響し合っていると考えられています。
低栄養と筋力の低下が重なって飲み込みに影響していた例は、当院の症例紹介(臨床でみられる状況をもとに構成した複合症例)サルコペニア・低栄養のケースでもご紹介しています。
低栄養に気づくための目安
体重の変化とBMIを確認する
低栄養は、ゆっくり進むと周りの方もご本人も気づきにくいものです。定期的に体重を測っておくと、変化に気づくきっかけになります。目安として、公的な資料では次のような項目が使われています。
- 厚生労働省が示している介護予防の「基本チェックリスト」には、「6ヵ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか」という質問と、BMIが18.5未満かを確かめる項目があります
- 東京都西多摩保健所の「高齢者の低栄養予防に関するチェックシート」では、BMI(体重kgを身長mで2回割った値)が18.5未満の場合には、低栄養になるリスクが高いので要注意とされています
たとえば身長150cm(1.5m)の方なら、BMI18.5は体重およそ41.6kgにあたります。ただし、これらはあくまで「気づくための目安」で、BMIが18.5以上であれば安心、体重の減り方が「6ヵ月間で2~3kg」より少なければ心配ない、という意味ではありません。体重が減っている原因が何か、どのくらい栄養をとればよいかは、一人ひとりの体の状態や持病によって異なりますので、主治医や管理栄養士にご相談ください。
「三食とも食べているのに痩せてきた」というケースは、体重の変化から低栄養に気づくケース(症例紹介・複合症例)でご紹介しています。
食事の様子に、飲み込みのサインが隠れていることも
このチェックシートでは、摂食嚥下障害をチェックする項目として次のような様子などが挙げられており、一つでも当てはまる場合には、誤嚥や摂食嚥下障害に注意して観察するよう呼びかけています。
- 食事中にたまにむせることがある
- 唾液が口の中にたまる
- 飲み込むのに苦労することがある
- 固いものが噛みにくくなった
- 体重が減ってやせてきた
- 声が変わった(がらがら声や鼻に抜ける声)
- よく咳をするようになった
- 食べる量が減った
また、同じチェックシートでは、食欲不振がある場合の観察ポイントとして、体調の変化(発熱、消化器症状、口腔内の変化等)、飲んでいる薬や持病の治療の変化、精神的な変化(不眠、気分の落ち込み、ストレス等)、生活習慣の変化も挙げられており、一つでも当てはまる場合には、食欲アップの工夫を行い、必要に応じて医療スタッフに相談するよう呼びかけています。食べる量が減った理由は一つとは限りません。お口の様子とあわせて、こうした変化がないかも確かめてみてください。
飲み込みにくさが続くときに考えられる原因は、「飲み込みにくい」が続くのはなぜ?嚥下の5つの段階と考えられる原因でご説明しています。
ご家庭でできる食事の工夫
食べる量が減っているときは、主食・主菜を優先する
先ほどの東京医科歯科大学 臨床栄養部の資料では、食事量が減っているときの工夫として、エネルギー量の低い野菜類を頑張って食べるよりも主食や主菜を優先して食べること、少量でエネルギー量の高い油脂類(油、バター、マヨネーズなど)も活用することが紹介されています。
なお、持病で食事制限を受けている方は、その指示を優先してください。むせるのが心配だからと食事や水分を自己判断で減らすと、かえって体力を落とすことがあります。食事を減らしたことが逆効果になった例は食事制限のしすぎに関するケース(症例紹介・複合症例)でご紹介しています。
噛みにくい物は、選び方と調理で食べやすく
同じ資料では、噛みにくい・食べにくい場合の工夫として、次のような例が挙げられています。
- 固形肉の代わりに薄切り肉、ひき肉などを使う
- 魚は刺身(マグロや鮭)、魚缶詰、すり身加工品(はんぺん、さつま揚げ)などを選ぶ
- 大豆製品(豆腐、納豆など)、卵、乳製品など、もとから軟らかい食品を選ぶ
- 人参、大根、芋類、軟らかい葉物など、加熱で軟らかくなるものを選ぶ
前半でご紹介したとおり、やわらかい物ばかりになることは噛む機能の低下とも関係するとされています。いまの食べやすさを優先する工夫と、噛む力を保つことの兼ね合いは、歯や入れ歯、お口の状態によって変わりますので、迷ったときは歯科でご相談ください。また、これは「噛みにくい」ときの工夫です。むせる、飲み込みにくいといった様子がある方は、軟らかくすれば安全とは限りません。食べ物の形や大きさ、とろみの必要性は、飲み込みの状態によって変わります。食事の形の考え方はきざみ食・ミキサー食の違いと選び方のページでご説明していますので、判断に迷うときは、医師・歯科医師や管理栄養士などの専門職にご相談ください。
歯科でお手伝いできること
「食べる量が減った」ときに、お口から確認すること
当院は摂食嚥下障害の診療を主軸としています。食べる量の減少や体重の変化についてのご相談では、次のような点を確認します。
- 噛む力——歯や入れ歯の具合、噛み合わせ、痛みや合わない入れ歯がないか
- 飲み込みの様子——訪問診療では、実際に食べる・飲む場面を拝見したうえで評価します
- お口の状態——口の中の乾きや汚れの残り方、舌の状態
- 食事の形と食べ方——いまの食事の形や一口の量が、飲み込みの状態に合っているか
栄養の量や体重の管理、持病との関係については、主治医や管理栄養士、ケアマネジャーなどと役割を分けて進めることもあります。必要に応じて、当院で確認したお口と飲み込みの状態を情報としてお伝えしながら連携します。なお、診療の効果や改善のあらわれ方には個人差があり、結果を保証するものではありません。摂食嚥下障害そのものについては摂食嚥下障害とはのページもご覧ください。
通院が難しい方には訪問診療も
通院が難しい方には、訪問診療という方法があります。健康保険による訪問診療は世田谷区を中心とした近隣エリア、自由診療(自費)による訪問診療は東京都・神奈川県の全域が対応の目安です。ご自身で通院できる方は、外来(完全予約制)でも承っています。
自由診療(自費)は公的医療保険が適用されず、全額自己負担となります。自費の嚥下診療(訪問)は、ご自宅・施設へ伺って摂食嚥下の評価、嚥下訓練とご本人・ご家族への指導、お口のケアを行うもので、初回22,000円(税込)・2回目以降16,500円(税込)、標準的な4〜6回の場合、期間はおおよそ3か月程度・総額71,500円〜104,500円(税込)程度が目安です(別途、交通費の実費をいただきます)。嚥下健診(デンタルドック)は、飲み込み・お口の状態を確認し、結果にもとづくご説明・今後に向けたアドバイスを行う健診で、16,500円(税込)・当日1回で完了し、回数の目安は1回です(ご自宅・施設へ伺って受けられる場合は、別途 交通費の実費をいただくことがあります)。評価や訓練の際にまれにむせ込み・一時的な疲労・不快感が生じることがあり、全身の状態によっては行える内容が制限される場合があります。期間・回数は標準的な目安で、飲み込みの状態やご希望により前後し、体調の変化などにより計画を変更・中止する場合があります。診療の効果や改善の程度には個人差があり、結果を保証するものではありません。ご不明な点はお電話(03-6459-7970)またはご相談フォームからお問い合わせください。詳しくは料金についてのページもご覧ください。
まずはご相談ください
食べる量が少しずつ減っていく変化は、毎日一緒にいるご家族ほど気づきにくいものです。体重の変化、食べる物の偏り、食事にかかる時間やむせ方など、気になる様子があれば、それがお口や飲み込みと関係していないかを確かめてみることも一つの方法です。当院は、誤嚥性肺炎の患者さんに長年向き合ってきた歯科医が担当し、一般社団法人 日本誤嚥性肺炎予防協会に加盟しています。東京都世田谷区・自由が丘エリアで、ご家族の食べる量や体重の変化にご不安があるときは、まずはご相談ください。


